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253.バカセカ番外編スレ
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46 :やっきー
2022/09/16(金) 23:07:54
《蘭視点》
数秒間、なにが起こったのかを理解できなかった。いきなり起こったことが多い。気づくと茶髪の女が白い箱に入っていて、その前に日向と黒髪の女がいた。
ようやく状況が飲み込めてきた。あれ、よく見たら黒髪の男も箱の中にいる。なんでだ? いや、どうでもいいことだ。気に留める必要はない、その価値がない。
「日向!」
ようやく会えた、そうおれが安堵したように日向も少しほっとしている風な雰囲気を見せた。
「……なんで血まみれなんだ?」
おれが聞くと日向はいま思い出したように自分の体を見下ろした。日向は髪から足先まで血にまみれていた。もちろん全身真っ赤というわけではない。しかしだとしてもどれだけ激しい戦闘をしてきたんだと探りを入れてしまう。と思ったところで一般的な感性なら一滴でも血がついていたらそれだけでとてもその人を心配するものかと思い出した。
「ルルの世界のボスを倒した」
「えっ、元の世界に帰れたのか?」
「ちがう、偽物。カミよりも作りが粗い、模造品とも言えない箱庭。あの箱の中にあった」
なるほど、あの箱も敵の中の一体か、と箱に目をやると、箱は既に消滅していた。代わりにリリと黒髪の女が神妙な顔で立っていた。
「どうしよう、霞月さんと奏芽さんがテレビの中に……早く助けないと!」
「うん。ハンカチを返さないといけないし。でもどうやって?」
出す言葉に困った黒髪の女がふとこちらを見て、やや青ざめた顔でこちらへ走り寄ってきた。
「ひなたさん、繝�槭医繧<返してくださいぃぃ!」
おれは身構えたが日向からは特に変化は感じられなかった。それが気になって日向を注意深く見てみると日向から黒髪の女に向ける感情に刺々しいものがなくなっていた。警戒心が解けたと表現するのは少し違う。日向は相変わらず無表情で無関心。日向が笑みを浮かべているということは当然ないしもちろん天地もひっくり返っていない。なにがあったんだろう。気にならないわけでもなかったがおれは日向と黒髪の女とのやり取りをなんとなくぼんやりと眺めた。
「鹸�剰咏�ʐ悄倬蜒、見てませんよね?」
「それはなに」
「えーと、繝�槭医繧<の中に入ってる絵のことです」
「見てない、興味がない」
「がーん、ですぅ。まぁ見てないならいいんですよ」
そんな会話の中で日向の手から黒髪の女の手へ赤い長方形が行き来した。なんだかその光景に現実味を感じず、夢でも見ているような感覚だ。実際は紛れもなく現実だが。
「あの二人を助けるのに二人も協力してください。その前にその体についた血をなんとかしないとですね」
一秒後、黒髪の女の腹からぐーっと音がして座り込んだ。
「お腹空いたぁ。おしるる、じゃないおしるこキャンディで誤魔化すのも限界ですぅ」
座り込んだ、かと思えば急にキリッとした顔つきになってしゃんと背を伸ばし立ち上がる。表情がころころ変わって忙しない。
「きっと二人もお腹空いてますよね。腹が減ってはなんとやら、ご飯を探しましょう! そうすればあの二人を助ける方法も見つかるはず!」
そこまではボーッとして見ていた。
次の瞬間、驚きのあまり意識が体に引き戻された。日向が黒髪の女の後について歩こうとしていたのだ。とっさに腕を掴むと日向は何の色も浮かばない瞳をおれに向けた。
「断る方が面倒くさい」
そして、日向はおれの手を握った。日向になにが起こったのか理解できなかった。
おれはリリを見た。変わっていないものを見たかった。期待に違わずリリは黒髪の女に嫌悪が込もる目を向けていた。それからおれと目が合った。
『私、“あの子”にちょっと似てた?』
似てる。もう一度それを認識して少し安心した。
「そういえばそのハンカチどうしたの?」
「奏芽のもの。敵に取られたから取り返して戻ったら、あの状況だった。相棒君からもらったって言ってた」
「大切なものじゃないですか! 絶対返さなきゃだね」
ところでいまは何時だろう。空を見上げてもこのセカイに来たばかりのときと同じように、空の色は相変わらず白いまま。太陽がないから、朝昼晩という概念が存在しないんだろう。
太陽がそれぞれの時間を作り上げていた。あまりに当たり前のことで全く意識していなかったことを半ば現実逃避気味に再認識した。太陽とは昼であると同時に、朝であり夜でもある。時間を決める太陽が存在しないのだから、そもそも何時という概念も存在しないのだろう。おれの疑問は愚問であったということだ。現実逃避は終了だ。
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