セブンネットショッピング

スレ一覧
253.バカセカ番外編スレ
 ┗47

47 :やっきー
2022/09/16(金) 23:09:08

 おれと日向との間に会話はなかった。繋いでいた手も特に理由もなくとっくに離している。気まずくはない。会話がないだけ。しばらく歩いた先で白い廃墟が見えた。このセカイでリリたちと初めて会った場所のそばにあった建物と重なる。どこに行ってもあるのは同じような景色ばかりだ。何階建てだろう。二階? 三階?
「この中になにかあるかも。入ってみましょう!」
 黒髪の女を先頭に中に入る。おれは最後尾。
 当然ながら中はとても静かだ。なにかが動いている気配は感じない。
 廃墟に思えたが、中に入って見ると家にも思える。間取りらしい間取りはないから白い箱の中に家具を置いただけのようにも思えるな。なんだか歪だ。
「ソファもベッドもありますね。ずっと動いてばかりでしたし、今日はここで休みましょうか」
 黒髪の女が、おれたち三人に提案した。
「そうだね。いきなりこんな世界に来て、疲れた」
 日向は声を発さずに頷く。
「らんくんもそれでいいですか?」
 どう答えるべきか悩んで、しかしすぐに首を前に倒した。
「休む前に食べ物を探そう」
 リリがそう言いながら視線を部屋にある机に向けた。おれもリリに倣う。そこにあったのは、机に溶け込んでしまいそうな程に白い林檎。ただし――
「作り物」
 日向がそっと呟く。日向の言う通りそれは遠目から見てもわかる明らかな偽物だった。
「なーんだ、偽物ですか」
 わかりやすく落胆の表情を浮かべる黒髪の女。
「でも、探せば本物があるかも。探してみましょう!」
 そう言ってどこかへ行ってしまった。

 日向と二人になりたい。

 さっきから思っていたことなのか、突如頭に浮かんだ考えなのか、とにかく切にそう思った。
「向こうに行こう」
 リリがなにか話しかけてきていたかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない。おれの意識の中には日向しかおらず、おれは日向を促して黒髪の女が向かった先とは反対の方向へ歩いた。
「蘭、お腹空いてない?」
 歩きながら日向がおれに問う。建物は狭く、目の前には壁がある。
「少しは空いてるかな」
 普段と比べると相当動いた。体力も魔力も消耗したから腹は減っている。まあ他の四人はまともな食事を取っていないようだからまだいい方か。どうでもいい。
「食べ物はないけど、水の匂いは外からする」
 日向はそう言って、入ってきた方向とは逆の位置にあるもう一つの扉を静かに開けた。意識に入れると、あの独特の匂いを感じた。
「湖でもあるのかな」
「そうみたいだね」
 どうやらどこかに大きな水溜まりがあるみたいだ。おれと日向は匂いがする方向へ歩いた。そしておれたちの想像通りそこには湖があった。水溜まりとして大きい、湖としては小さい。おれは海と川と湖が嫌いだから少し顔をしかめた。

「なあ、日向。黒髪の女となにかあったのか?」
「?」
 日向はきょとんとした。表情には出ていないが、おれにはわかる。
「いや、随分あいつに対する雰囲気が変わっていたみたいだから、ちょっと気になって」
 日向は自覚していなかったらしい。顎に手を当てて考える素振りをしてからおれに言った。
「ルルは、面白い」
 まずはそう結論を述べて、そう思う理由を並べ始めた。
「やかましいほどに表情があんなに変わる存在は、私のそばにはいなかった。それにルルは私が知らないことを知っている。花園日向である私が知らないことを。知らないことを知るのは面白い。面白いことを、ルルはする」
 日向は面倒臭がりだ。それと同時に気まぐれでもある。きっといまの黒髪の女との状態も気まぐれによるものなんだろう。日向が黒髪の女に心を開きかけているわけではないことを知って、心の中に巣を張っていた不安があらかた取れた。
「それから、ルルの魔力の色は赤色だ。きっとそれは私たちとルルたちが生きる世界が違うというだけで、あまり意味はないものだとは思うけど。気になる、興味がある」
 おれはようやく日向の思考が理解できた。
「あと、蘭は私のルルへの対応が気になるようだけど、私は蘭のリリへの対応が気になる。蘭も蘭にしてはリリに友好的に接している方だと思う。どうしたの?」
 そう尋ねられてドキッとした。おれにもその自覚があった自分にしては他人に接する態度があまりきつくないことに気づいていた。その理由にも心当たりはあったものの、返事をするのはやや気恥ずかしかった。

[返信][編集]



[管理事務所]
WHOCARES.JP