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253.バカセカ番外編スレ
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48 :やっきー
2022/09/16(金) 23:09:49

 だからといって回答を拒否するのも違うだろう。おれは日向の問いにできるだけ正直に答えた。というのも、自分でもどうしてリリにはああいう風に接しているのか正答を見つけられていない。
「リリは日向に似ている気がする。多分、だからだ」
 日向は不思議そうに首を傾けた。
「私に似てる?」
「うん、具体的にどこがとは言えない。どこがじゃなく、どこか似てる。悪い。自分でもどこを見てリリと日向が似てると思ったのかがわからないんだ」
 日向は「そう」と呟いて興味をなくしたように湖の方に目を向けた。日向に向けて言った言葉でもなく、かといって独り言でもなかったが、おれは呟いた。呟いたということは、やはり独り言ということになるのか。
「向こうはどう思ってるかわからないけどな」
 むしろおれたちを嫌っている可能性の方が高い。おれたちはそう思われるような性格をしているからな。おれたちに好意を抱く者の方が少なく、それは物好きというものだ。

 そうだ、とふと思い出したことがある。確かルルは自らを神だと言っていた。はっきりそう聞こえたわけではないが、リリが意図せず代弁していた。あれについても気になるところだ。ルルが言う神とはなににおいての神なのか。神と一言で言うものの、その種類は複数ある。神とは一つではないのだ、少なくともおれたちが生きてきた世界では。見るからに平凡そうなルルではあるが、内に秘める魔力の大きさは外から見てもわかる。神と言われても頭から否定することはしない。認めるわけでもないけれど。それにしても、もし仮にルルが神だというのなら、なぜこんなに平然と自然と神がこんなところにいるのだろうか。『おれが言うのも変な話だが』。
 リリに関してもルルとはまた違った特別な気配を感じる。これについても具体的にどうとは言えない。
 ところで、リリとルルの関係はどういったものなのだろうか。はっきりと聞いたことはなかったな。

 あの二人の話になったからついでに他の二人のことも話に出してみようかと思ったが、やめた。あの二人のことをどう思うと聞いたところで答えは決まりきっている。おれも日向も等しく『きらい』。聞くまでもない。
 視線を遠くにやると三角錐の建物が目に入る。このセカイにやってきたときよりは近づいているようにも見えるが、まだ遠いな。
「日向は元の世界に帰りたいと思うか?」
 とてもというほどではないが気になっていた。日向が元の世界をどう思っているのか、このセカイをどう思っているのか、日向の目にはどう映っているのか。共に過ごす時間は長いけど、世界についてどう思っているのかを聞く機会はあまりない。
「別に、なんとも」
 それはおれが訊くのをいつもためらっているからだが、いざ聞くと日向は呆気なく答えた。真面目に考えることでもないと体現するように、話しながら魔法で体に着いた血を落とす。
「このセカイは私の知らないことがたくさんある。あの世界はつまらない。だからといって帰りたくないとは思わない。帰りたいとも思わないけれど。願うことは無意味だから」
 自分で訊いておいて、息が苦しくなった。
「蘭は?」
 日向はおれに問い返した。おれは数秒考えてから声を出した。
「このセカイにいることで日向が救われるのなら、このセカイにいればいいと思う。でも」
 そんなことはあり得ない。だから帰るしかないんだ。日向の救いは、あの世界にあるから。
 こんなことを考えても仕方のないことだといまになって気がついた。どうせおれたちはあの世界に存在しなければならない存在だ。ただし、帰ることを急がなくてもいいだろう。存在しなければならないとおれたちを縛り付けているのはおれたちではなく世界なのだから。

「とりあえず水は見つけたからあの二人に伝えに行くか。それか、この場でもう少し」

 ゆっくりしようか、そう日向に提案しようとしたところでおれの意識は別の方に向いた。そのために、最後まで声を並べることができなかった。

 白い廃墟の方で大きな音がした。

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