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253.バカセカ番外編スレ
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55 :やっきー
2022/10/20(木) 19:28:02
《蘭視点》
おれが放った太陽が掻き消された。日向による干渉だ。おれは日向を見る。日向の無表情はまるで変わっていない。しかし変わっていることがある。日向を取り囲む風景が微妙に、そして明確に変わっている。おれの足はしっかりと硬質な白い床を踏んでいて、その床は同じように白い壁と繋がっている。
元のセカイに戻ってきたんだ。ルルとリリがいないが気にすることではない。それよりも気になるものがおれの目の前に佇んでいた。
「着いたのか、ここに」
巨大な三角錐の建造物がそこにあった。特徴のないセカイに来たときから唯一異様な存在感を放っていたこの建造物を前にして、手足が痙攣するような錯覚を覚えた。
日向は頷いた。
「うん。元の世界に帰ろう」
おれたちに『帰る理由』なんてものはない。いずれは帰らなければならないし、なんなら強制的に戻されるはずだ。おれたちはセカイではない世界に強い結び付きがある。特に日向は。日向は特別な存在だ。良くも悪くも。
帰る必要はある。でもそれを急ぐ理由がない。日向も同じ考えだったはずだ。どういった気まぐれで帰ろう、なんて言ったのか。
その疑問はすぐに解消された。日向は呆気ないくらい単純な三音を発した。
「飽きた」
おれは少しだけ驚いて、けれどすぐに肯定する。
「なら帰ろう」
少しだけ驚いて、少しだけ悲しくなった。ひなたは無表情を貫いていたがこのセカイを多少なりとも楽しんでいるようだった。日向は元々は好奇心がある方だ。対象がないから、世界の全てを知っているから好奇心の片鱗も垣間見えないだけで。未知のものに溢れたこのセカイに興味を示しているようだった。
飽きた理由に心当たりがある。きっとさっきの神化だ。神化によって未知が既知に変わってしまったんだ。神になったことでセカイと一体化し、セカイの未知の部分を知ったのだろう。全てではないにしても。
それはあまりにも悲しい。
「で、どうする? とりあえず入口探すか?」
まず全体像だけを視界に捉える。入口らしきものは見当たらないから探す必要がありそうだ。
「それはついで。まずは周辺を見よう」
「そうか。じゃあおれはあの塔を見てくる。日向はどうする?」
おれはセカイに来てから三角錐の建造物と共に気になっていた四つの塔のうち一つを指した。
「一緒に行く」
日向はおれの目をまっすぐに見て、無表情のままそう言った。青と白の瞳に感情は見えない。
「ここに来てから離されることが多い。心配」
おれは思わず日向から視線を逸らした。顔は固定したまま視線の方向だけを空に向ける。
日向は無感情なのではなく、感情の表現の仕方が下手――苦手なだけだ。多くの人々よりは確かに感情そのものも薄いけど、皆無という程ではない。表情に反映されないほど弱いだけで喜怒哀楽はきちんと備わっている。そして日向は表情に出ない代わりに口で感情を伝えてくるのだが、それは大抵直球だ。遠回しに伝えようとはしてこない、というよりその技術がない。まっすぐに伝えられると照れくさく、これはなかなか慣れることはなさそうだ。
「わかった。一緒に行」
おれの発言は唐突に現れた光によって中断せざるを得なかった。強い光に思わず目を細め、光を直視しないように日向に視線を戻した。その日向はもうおれを見ていなくて、光を見つめていた。
光はおれたちから十メートルほど離れた場所に着陸した。そこにいたのは七色の衣装を纏う一人の戦士。そいつは耳障りな声をおれたちに向けて放った。
「やっぱりここに来たんですね」
ルルの声だ。
「うん」
日向が返事した。意外だ、そう感じたが直後納得する。そういえば、おれを攻撃したのはリリであってルルではない。
「光り魔術︰ビッグ・バン!!」
ルルが叫んだ。同時に光りが辺りに充満し、爆発が起こった。先程までとは明らかに強力になっているルルの魔力に高揚する自分を見つけた。
なるほど神を自称するだけある。
だが。
「つまらない」
それでも日向には到底及ばない。日向は燃え盛る炎を一瞬で鎮火してしまった。炎から酸素を奪うようにルルの魔力に自分のより純度の高い魔力を被せ、ルルの魔法の自由を奪った。
「ビッグ・クランチ!!!」
それは想定内とばかりに続けて魔術を打ち出すルル。今度は七色に輝く光線が日向を貫こうとした。日向は最小の運動で光線の軌道を逸らした。どこかの壁が壊れる音がした。
「別に、貴女をどうかするつもりはない。罪人への断罪は終了した」
苛立ちなんかも一切ない無感情な声が静かに響く。
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