スレ一覧
┗
253.バカセカ番外編スレ
┗56
56 :やっきー
2022/10/20(木) 19:29:16
「……どういう意味ですか?」
「そのまま。リリは両目を失った」
ルルの顔はマスクに覆われて見えないが、些細な体の動きで何かしらの感情が動かされたらしい。それがなんなのか知りたいと思うほど、おれはあいつに興味がない。
「全ては私に帰結する。全ては神の意志によって動かされ、全ては偶然という名の必然の元に成立する。リリの両目を潰したのは貴女であり蘭だけれど、それは私がそうさせた。私が決めた断罪を執行したまで」
日向は一歩ルルに近づく。
「連帯責任なんてものはない。個人の罪は個人の罪で、それ以上でも以下でもない。貴女に罪はない。だから私は貴女にはなにもしない。貴女も私にキセキを向ける必要はない」
キセキというのは神が使う術のことだ。日向もルルを壱世界の神だとは認識しているらしいな。
「ひなたさん。私はね、怒ってるんですよ」
宣言通り憤りのこもった声でルルは言う。
「いくら幼いからといって許されることと許されないことがあります。ひなたさんは許されないことをしました」
ルルはおれたちを幼い子供と思っているから、言い聞かせるように日向に向けて言葉を並べる。当然、日向に届くはずもない。
「だれ」
「え?」
「許さないのは、だれ」
日向の目は確かにルルを捕らえている。ルルは一瞬だけ焦りを見せたが、力強い声を日向にぶつけた。
「私です。私だって、神ですから」
その瞬間をおれは見逃さなかった。日向の感情が抜け落ちた瞳に、ほんの僅かな欠片の欠片の欠片が収まった。その欠片の名は『希望』。叶うはずのない、何度も打ちのめされてきたそれを、日向はまだ諦めていないのだと改めて感じた。嗚呼、あまりにも悲しい。
日向は自身の胸の前で手を組んだ。祈るような仕草をして、ルルの足元に跪く。
「貴女が私に罪を与えると言うのなら、それを世界に許されていると言うのなら、私は喜んで罰を受けましょう」
視線を落とし、低い声で囁く。
「貴女が私の神だと言うのなら」
ルルの動きが一秒にも満たない時間だけ止まった。しかし直後に運動を再開する。
「神魔術︰サ終」
いままでのあいつの魔法はなんだったのだろうか。そんな疑問さえ浮かんでくる。ルルの体に、おれも数回しか感じたことがないくらいの濃密な魔力が、多分魔力が集合した。ルルの体から吹き出したと言うよりは、セカイに漂う魔力がルルにより引き寄せられたような。
膨大な濃縮された魔力がルルを介して日向を直撃した。日向は無抵抗にそれを受け止めたし、おれもなにもしなかった。ただ一連の流れを眺めていた。なにもしなかったけれどなにも感じなかったわけではない。ルルのキセキによって日向の体がバラバラに分解されていく様を直視するのはある程度気分が悪かった。日向の体を構成する物質が砂にすり変わり、そよ風に拐われていくその様子を、不快に感じながらもおれは目に焼きつける。ルルはこんなおれを不審に思うだろうか。まあどうでもいい。
「ど、どうして……」
困惑の一色に染められたルルの声。驚愕に震える目線の先にいる日向は、やはり無表情だった。
「だめか」
そう言って立ち上がり、存在を確認するかのように両手を開閉する。もしかしたら体は消えているんじゃないかと期待するように。
日向は感情がないわけではない。感情を受ける器が穴だらけで形も歪だから、それを脳が処理するに至らないのだ。日向の中の絶望すらも穴から崩れ落ちて、日向の瞳に浮かんでいた希望もその影ごと消えていた。
日向は事実として特別な存在だ。花園日向という個人を殺すことは可能だろう。しかし花園日向の中にある魂そのものの消去は誰にとっても不可能だ。……いや、もしかしたら、おれたちの魂が還る場所ではないこのセカイで死ねば、あるいは他の世界の神であるルルならばそれは可能だったかもしれない。
日向がセカイの神になっていなければ。
「私は貴女の魔法でもキセキでも死ぬことはない」
日向はあくまで静かにルルに問う。
「私たちはセカイから世界への帰還を目指す。貴女は、どうする」
[
返信][
編集]
[
管理事務所]