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253.バカセカ番外編スレ
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57 :やっきー
2022/10/20(木) 19:30:07
「このままじゃ平行線だ。お前じゃおれたちを倒せないし、かといっておれたちはお前を倒す気がない。ここでずっと魔力をぶつけ合うのは時間の無駄だ」
おれはずっと喋っていなかったことに気づき、なんとなく日向の言葉を補足した。
「おれたちはこれからあの塔を目指す」
おれが四つある塔の一つを指すと、ルルもそちらを見た。警戒心があるのかないのか。ルルが目を離している隙におれがまた太陽をぶつけたらどうするつもりなのだろうか。そんなことはしないが。どうでもいい。
「おれたちは急いでるわけじゃないが、お前らは急ぐんだろう? だったらおれたちは改めて、協力するという手を提案する」
「あなたたち二人が協力してくれるとは思えないんですけど……」
ルルが振り向いた。
そう言うってことは、少しくらいはこの提案に乗り気ということだな。
「それは単に、協力する気がなかったってだけだ。その必要もなかったし」
繰り返すが迷路の攻略を急いでいたわけでもいなかったし、協力すると約束したわけでもなかった。むしろ日向以外の四人は足でまといにすらなる。そう考えた結果だ。それ以前に、単におれが四人のことを嫌いだ。これはいまでも変わらない。嫌いというか、どうでもいいというか。
「だがこちらも考えが変わった。特別急ぐわけではないが、元の世界に帰る気が起きた。短い間ではあるけれどそちらの力量もある程度把握した。協力し合った方が効率はいいだろう。そして力量を把握したのはそちらも同じなはずだ。おれたちがただの子供ではないことは、もうとっくに気づいてるんだろう?」
実際は子供であるかどうかすら怪しいが、今はそんなことどうでもいい。
ルルが笑った気がした。実際のところどうなのかは七色のマスク越しにはわからない。知りたいとも思わない。
「ようやく分かったんですね。協力した方がいいって」
そう言いながら手を差し出されたので、おれは突き放すように言った。
「協力はあくまで利害の一致の上でのことだ。馴れ合うつもりは無い」
「まだそんなこと言うんですか!」
当たり前だ。協力関係にあることと信頼関係にあることは全くの無関係。そうだろう?
「別にいいですよ。私だってひなたさんがリリにしたこと、許してませんから」
「許しを乞うた記憶はない」
そういえばそんなこともあったな。結局あれはなんだったんだろう。おれの記憶と二人の言動は異なっていたが、二人が嘘をついているとは思えない。日向が「そうみたいだね」と言ったから。日向がそう言うのなら、そうなんだろう。
これだけはどうでもいいの一言で片付けられない。なにか引っかかる。でも、それがなんなのかまではわからない。おれはなにが気になっているんだ?
「あーあ、結局協力するのか」
突然背後から、三角錐の建造物の方から声が聞こえた。驚いて振り向くが誰もいない。誰もいないのに声がしたことにも驚くが、もし誰かがいたとしてもおれは驚いただろう。なぜならその声はおれのものと酷似していた。無意識におれが声を発したのかとも考えてみるがそうだったとしたら声が背後から聞こえてきたことの説明ができない。
おれの声だったのかもしれない。物理的な背後ではなく精神的な背後に、つまりおれの意識の底にあるおれの本音が『声』という形を使っておれに話しかけたのかもしれないな。確かに声の主の言う通りだ。結局こうなってしまった。初めて会ったときは協力なんて選択肢にすら挙がっていなかった。
これが嫌だとは思わない。別にいい。日向だって拒否していないし。
そう思って日向を見ると、日向は三角錐の建造物を眺めていた、いや、睨んでいた。
「どうした?」
尋ねてみるが。
「別に」
日向はなにも答えなかった。
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