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253.バカセカ番外編スレ
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62 :やっきー
2022/10/23(日) 16:19:53
「ひな――」
蘭の声が途切れたので振り向くと、扉が勝手に閉まっていた。開けようとして奥に押し込むが開かない。私は闇の魔力で球体を作り出し、扉にガンッとぶつけた。次に光の球を、火の球を、水の球を、風の球を、土の球を。
ぶわ、と鳥肌がたった。恐怖から来る感情ではないこれは興奮そして歓喜。私は権力をぶつけた。今度こそびくともしない。私の表情筋は笑顔を作った。
「おはよう、それともこんにちはかな。セカイに時間の概念はあっても朝昼夕晩の概念はないからどっちも間違っているかもね」
声がした。だから、そちらを見た。
「じゃあ、間をとって、こんばんは」
そこにいたのは私だった。
「初めまして? それとも久しぶり? あるいはどれでもない? 私と貴女との関係はよくわからないね」
私は私と同じ服を着て、私と同じくらいの背で、私と同じ声をしていた。そんな私は私が一回瞬きしただけで急成長を遂げた。服は露出の高い黒のワンピースで靴は履いておらず、裸足だった。この格好はワタシの趣味というわけではない。そもそもワタシは服を着る必要がなく、言ってしまえば裸体であっても問題ない。むしろ裸体が正しい姿だ。服というものは人が作り出した防御のための人工の皮に過ぎず、そしてワタシはその身一つで完璧な存在なのでわざわざ防具を身につける必要がないのだ。だからワタシの衣装はあんなにも薄いのだ。
必要ないのになぜ服を着ているかと言えば、それは表現上裸体だと『マズイ』からだ。神の都合だ。
「ずっと見てたよ。わかっていたけど正にチートだね。神にチートキャラと定義付けられた私らしい行動よ。まさかセカイの神になっちゃうなんて」
ワタシはくすくすと笑った。その行動は感情から来るものではない。ワタシに感情はない。必要ないから。ワタシは神によって笑顔を貼り付けられているだけだ。
「お喋りを楽しむのも一興。でも私が望むものは違うでしょう?」
そうだ。ワタシと話したところでなにになる。私はそんなことをしたって満たされない。
ワタシは変わらずくすくすと笑っている。
「それじゃあ物語を進めましょうか」
ワタシが宣言すると、塔の壁があっという間に遠ざかった。空間が広がり、やがて壁や床の概念がこの場から取り除かれる。先程私が行った創造魔法で創った空間と同じものだ。
「このセカイの秘密が知りたければ、このセカイから脱出したければ、ワタシを倒しなさい。
ま、無理だと思うけど。私は人間でワタシは神。このヒエラルキーが覆ることはありえない」
私の胸中にある鐘はぐわんぐわんと鳴り響く。闘争の開始を告げるゴングみたいだ。この戦闘は死闘となるだろうか。ワタシならば私を殺すことが可能だろうか。もし可能ならば、どうか神よ、私を殺してください。あれほど焦がれた死を、罪を、私に与えられると言うのなら、どうか。
嗚呼、面倒臭い。戦いなんて面倒臭い。さっさと死にたい。出来ることなら迅速に。飽き飽きだ。こんなセカイは世界は飽き飽きだ。こんな身体こんな命こんな魂こんな運命こんな宿命こんな使命もううんざりだ。
「そんなこと言わないで。楽しみましょう。きっと最後の、いいえ絶対唯一のチャンスよ。私が満足出来る戦いの」
一理ある。私がワタシに敵うはずがない。
「私が負けたら、それは死に直結する?」
期待を込めて、『尋ねる』。
神は意地悪く、「さあ?」と微笑んだ。
「セル・ヴィ・ラドュス」
神が宣言すると、神の体が白くなった。違うな。この白い空間でわかりにくくなっているが、神が光を出現させたんだ。白くて冷たい、嫌な光。冷気を引き連れてやってきた光は私を包み、私の体にある穴という穴から侵入した。あまりの冷たさに五感を奪われ――る前に、神が再び告げた。
「セル・ヴィ・エドゥス」
私の中に入り込んだ冷たい光は闇に変換され、爆発を起こした。バッと赤色が白いセカイに現れる。左腕に違和感があったので見てみると、そんなものはなかった。代わりに真っ赤な液体があった。
私は念じた。ワタシの支配空間ではなにをされるかわからないので、手始めに弱めの魔法を。でも。
私の中からは、魔法もなにも出なかった。私はさっきしたみたいに右の手のひらを開閉した。魂が身体中に魔力を循環させ続けていることは感じるので魔力はあるはずなのだけれど。試しに権力を打ってみる。なにも出ない。
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