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253.バカセカ番外編スレ
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68 :やっきー
2022/10/27(木) 19:56:05

 塔の中には男がいた。こちらに背を向けていて顔は見えず、首から上の視覚情報は黒い短髪だけだった。
 彼はとにかく黒かった。黒いローブを身に纏い、履いているブーツもまた真っ黒。手には大きな鎌を持ち、それを握る手も当然黒手袋を着けていた。背丈は人間の成人男性の平均身長に近いはずだが小さなこの体ではかなり大きく見える。
「え?」
 ルルが小さく呟く。驚くのも無理はない。ルルの偽物は青い石の姿も兼ねていたとはいえルルと瓜二つの容姿だった。それに最初にルルの目の前に現れたおれの偽物の容姿は同様にそっくりだっただろうから、ここでもその姿で現れると疑っていなかったはずだ。

「来たか」

 彼はゆったりと振り向く。それにより確認できた彼の顔は多少の違いはあれど、彼がおれの偽物だと納得できる程度にはおれと似ていた。おれはいわゆる童顔というやつで、成長しても幼少期からあまり顔つきが変わらない。
 いまのおれでは出せない、声変わりを終えた喉仏のある青年の声が空気に馴染む。
「一人ずつ来るかと思ったんだが、なるほどまとめて来るか。まあ想定内だ」
 彼が言い終わるか言い終わらないかの境目で、ルルがおれに問う。
「どういうことですか? 誰ですかあの人! 蘭にそっくりだけど……」
 さてなんと返すべきか。『成長したおれ』では説明不足だし、時系列ではあいつの方が古い。真実を告げることはセカイにも許されていない。
 別にこの場を乗り越えるために嘘をつくことにも抵抗感はないが、好んで嘘を口から垂れ流すような性格ではない。多分。どう説明しようかと思案していると彼が口を開いた。
「おれの名はヘリアンダー。花園日向、東蘭の世界での、太陽神だ」
「へりコ溘クキ溘縺縺溘翫?」
「ヘリアンダー」
 ルルの言葉は一部破損していたがとにかくくだらないことを言っていることだけはわかった。
「蘭って、東蘭っていうんですね。ひなたさんも」
 そういえば氏名を伝えたことはなかったか。
 
「不思議なこともあるもんだ。人を愛することをやめたお前が、どうして出会って間もない女を隣に置いている?」
「愛って……そんなんじゃないですよ」
 的はずれな発言をしているルルは放って、おれは答える。
「ルルを愛したわけじゃない。ヒトを愛さないという決断はいまも継続しているさ」
 彼は哀愁漂う笑みで「そうか」と呟いた。おれもいつかこんな顔をしていたのだろうか。
 
「このセカイから出るにはそれぞれの偽物四人を倒さなければならない。無論おれもだ」
 とうとう戦闘が始まるのか。おれは身構えた。ルルも戦闘態勢に入ったのを感じる。
「【キセキ・深淵ノ招キ】」
 彼の言葉がドロリと溶けて、ぼたっと白い床に落ちた。黒いそれは瞬く間におれたちの足元まで這い寄り、そこからガパッと手が生えた。
 細くて一見頼りなくも見える手だが、代わりに艶すら見えない全てのかげを吸収するクロが恐怖心を煽る。大昔からいままでずっと見ていなかったからか、本来の術者であるおれも心臓に恐怖が注入される。
 黒い手が、ゆっくりと、確実に、おれたちに向かって振り下ろされた。
「反撃するな避けろ!!」
 おれは叫ぶ。ルルは一瞬だけ動きが止まった。たかが一瞬されど一瞬その時間が命取りになるしかしルルはなんとかすんでのところで避けられたようだった。
「なんですかあれ!」
「あれは魂を掴み取る手だ! 触れたらその時点で魂が身体から!」
 おれはそこで言葉を止める。また手が迫ってきたからだ。あれだけで充分通じただろう。

「【キセキ・深淵ノ誘イ】」

 床の黒がポカンと空いた。彼のキセキにより重力の方向が拗られ、おれは穴に引きずり込まれそうになった。
「くっ!」
「掴まってください!」
 ルルが叫ぶ。ルルが差し出した手に掴まったところで激流の中雑草を掴むのとなんら変わらないが、気休めにはなるだろうとルルに応える。
「どうして攻撃しちゃだめなんですか!?」
「魔法は魂と強い結び付きがある! 物理的に触れるのはもちろん魔法的にアレに触れても魂は抜かれる!」
 ヘリアンダーという神は多神教であるキメラセルの神々の中の最高神、ディミルフィアを姉に持つ、自身も高位の、かつ特殊な神だ。太陽神と死神という極端な二つの力を従える。魂の輪廻を管理する機関である冥界の王、冥王以外では唯一直接魂を取り扱うことを許された存在だ。

 そしておれはただの人間。人間の中では強い方になるが神との力の差は歴然で、到底敵うはずもない。
 おれはかつてのディミルフィア、姉であるフィアに自ら願って人間に転生した転生者だ。日向とは違って、代償を払うことでも神の力を使うことは出来ない。自分の前世以前の記憶を語ることも許されない。そうしようとした瞬間に、世界に行為を強制的に終わらせられるからだ。

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