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253.バカセカ番外編スレ
 ┗79

79 :やっきー
2022/11/01(火) 23:42:56

 ズドォン、と轟音がした。ルルが建物に大穴を開けたのだ。不定形なものがゆっくりゆっくり穴を閉じていく。その前におれたちも続いて穴の中へ滑り込んだ。

『たすけて』
『でていけ』
『きてくれてありがとう』
『きえたくない』
『もうあんしんだ』
『どうしてきたの』
『ここまでこれるなんてすごい』
『もうおしまいだ』
『きっとかれらならわたしたちを』
『どうかぼくたちを』

  『すくってくれる』
  『ころさないで』 

 黒い粘液が口から入り込んでくる。息が出来ない。体内をぐちゃぐちゃに掻き混ぜながら魂たちが叫んでいるような感覚。気絶しないように、意識に理性に必死にしがみつくが、いつまでもつだろう。ゆっくりゆっくり落下しているような気がしてほかの四人を朦朧とした視界で捉えると、昇っていたり止まっていたり回転していたり上下左右に飛び回っていたりと定まらない。これも十人十色な魂が混合している影響だろうか。
 余裕そうな顔をした日向が上の方から泳いできた。
「大丈夫? 大丈夫じゃないよね。ふふっ」
 微笑みを浮かべながらおれに入り込んだ魂を掻き出す。おれは呼吸という言葉を掴んだ。
「っは、ありがとう、日向」
「いえいえ」
 ニコニコと擬態語がついてきそうな笑みを向けられ、またおれは視線を逸らす。

『ころしてしまおう』
『それはだめだよ』
『ししてなおしにたいというのか』
『ちがうよ、ぼくはすくわれたいの』
『きえるのはこわい』

 おそらくおれと同じ状況によって苦しんでいる三人を見て、日向に尋ねてみる。
「死ぬかな?」
「彼らを殺したい魂と殺したくない魂は五分五分でしょうから、生死をさまようだけでしょうね。私たちが手を加えれば五分五分じゃなくなるわよ?」
「殺すってことか?」
「違う違う。物騒ね。助けるって意味よ。殺したい? 私は構わないわよ」
 手を加えるとは言ったが手を下すとは言ってなかったな。確かに。おれの思考が先走っていたのは否めない。
 日向ならおれが『手を加える』と聞いてどっちに捉えるかなんてすぐに想像つくだろうから、またからかわれたのだろうか。

「んーっ! んーっ!」

 口を塞がれているはずなのに、ルルの叫び声、のようなものが聞こえてくる。
「とりあえずルルは助けてこようかしら。面白そう」
 おれがなにかを言う前に日向はまたすいっと泳いでいく。ザアッと魂の襲撃に遭って、ひなたの体が後退した。
「お、私の邪魔するの? いいよ!」
 日向は無言で詠唱を済ませて魂になにかの攻撃をした。大方権力をぶつけでもしたのだろう。魂も負けじと日向を襲い、なんと日向は力負けした。初めて見た。支配者(マストレス)となった日向が負けるのは。主と神では主の方がヒエラルキーの位置は高いので当然と言えば当然なのだが。
 日向がくるくると全身を回転させながら、おれの前にいたのにおれの後ろまで押しやられた。日向は呑気にキャッキャッと笑っている。
「アハハッ! おもしろーい! ねぇね、蘭。私じゃ勝てないかもぉ!」
「そんなこと言ってる場合か!!」
 ぐんぐん飛ばされる日向を懸命に追いかけ手を伸ばす。あと少しで手が届く。そう思った直後――

「あら、ご心配ありがとう」

 日向は呆気なく自力で体勢を立て直した。またからかっただけかよ。心配して損した!
「あー、クソッ」
「吹き飛ばされたのは本当だし勝てないのも本当よ。あと、クソなんて低俗な言葉使うのは嫌だなぁ」
 自分の口調が俗っぽくなったのは自覚してるよ。ほっとけ。
「じゃあ今度こそ行ってくるわね」
 日向はふわっと浮かび上がってルルの元へ行った。その様子を見ていると、突然日向の金髪を見失った。日向が遠くへ行ったからか? 違う。まだ視界に収められる距離にいた。おれと日向との間になにかが割って入ってきたんだ。

『オレノコトヲオボエテイマスカ』
『ドウシテタスケテクレナカッタンデスカ』
『アナタガワタシヲミステタンダ』

 その声はなんとなく聞き覚えのあるもので。
 古い記憶が呼び覚まされる。
 遠い遠い、あの頃の。
 神だったときの。人を愛することをやめたときの。人を救うことをやめたときの。
「あのときの奴らか」
 返事はなかった。意思疎通はできないということか。
『ホカノヤツラハオスクイニナッタノニ』
『ドウシテワタシハスクワレナカッタノ』
『アナタノセイデオレハミズカライノチヲタッタ』
 おれは吐き捨てた。
「知るかよ」

 魂たちによる窒息から逃れたらしいルルの叫びが聞こえてきた。
「リリー! 聞こえてるんでしょ!? そこにいるんでしょ! 返事して!!!」

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