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253.バカセカ番外編スレ
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83 :やっきー
2022/11/02(水) 23:50:05
それは概念だった。それだけだった。それだけがあって、それが概念だった。ただの概念が、情報が、穴に入れた右手から脳内に流れ込む。
充分だ。なるほど、なるほど。仕組みはわかった。こいつらを救う理由がなくなった。帰れる。元の世界へ。それを使えば。
「ひなたさん!」
ルルの声。私は振り向いた。すると六人がそろっている。まともにそろったのは、いつぶりか。
「ひなたさん、協力してください。リリを――魂たちを、救うために!」
「嫌」
即答する。
「必要ない。たったいまわかった。救わなくても帰れる」
全員がわけがわからないと顔に書いた。蘭も含め。なら説明しよう。
自殺者の魂がこのセカイに集められる、仕組みを。
「ここにある魂たちには、私たち以外の世界から来た。ものもある。数千数万数億の。
元から世界がそう創られたか、その魂が特別か。どちらかでない限り魂は世界の行き来は出来ない」
私はそれが可能だけれど、それも条件付きで限定的だ。同じ時空に存在する世界に限られる。なので私はルルたちや霞月たちの世界には行けない。原則。
「何事にも例外はある。その一つがこのセカイ。実際異世界の魂が集まっている」
そして全ての物事には必然が必ず存在する。この現象が起こった理由が存在する。理屈が存在する。
つまり、世界からセカイに来るときに通った『通り道』が存在する。
「この無数の魂はおそらく、この穴からやってきた」
自殺したことによって世界から追放された魂。行き場を失くした魂は『とある道』を漂って、セカイへと続く『流れ』に掴まれた。そしてセカイの主の一部となった。
「これがセカイの出入口。私たちが元いた世界にも出入口が存在するはず。心当たりはある」
蘭がなにかに気づいたようで、あ、と呟いた。
「霊道か」
正解、と呟いた。
霊道。それは霊の――魂の通り道。時々魂そのものが、あるいは実体を伴って、迷い込む。そうして迷い込む現象を『神隠し』と呼ぶ。
霊道は広い世界の中でも特に不可思議に満ちた場所。比較的面白く、私はしばしば訪れる。だからわかる。この穴は各世界の霊道に続いている。各世界があの道を霊道と呼ぶのかどうかは知らないが、とにかくあれがセカイへ通じる世界の道だ。
「確かに、上手くすればここから帰れるかもしれないな」
蘭があごに手を当て考え込む。そう。上手くすれば。上手くいく確証はない。けれど上手くいくだろう。セカイから出さえすればあとは世界が引きずり込んでくるだろうから。
「これで帰れる? だからなんだって言うんですか」
ルルが苛立ちを隠さずに言う。
「つまりリリを、この無数の魂を放って行くってことですか?!」
「うん」
それになんの問題がある。救おうと思ったのはそうしないと帰れないと思ったから。必要ないなら、救う義理なんてない。
「……ッ! もういいです。協力を仰いだ私が馬鹿でした」
いま気づいたのか。
ルルは私たちに背を向けて、上昇していった。
「僕たちも行こう」
霞月がルルに続く。
「こんなに多くの声が、助けを、救いを求めている。それに応えるのがヒーローだ」
力強い声に圧され、あのしつこい奏芽もすぐに霞月を追った。一度だけ、ちらりと私たちを見たが。
立派なことだ。通常のヒトの心理ならそう言って彼らを賞賛するだろうか。ところで自殺者の魂がセカイの主となるのなら、自殺同然の行為をしようとしている彼らが死ぬとどうなるのだろう。
「日向、どうするんだ?」
なぜ尋ねる。答えは決まりきっている。
「帰る」
蘭は悲しそうに笑った。なぜ。
「そっか」
そのときだった。
『いっちゃだめ!!』
『でていけ!!』
真逆の声が雪崩を起こし、私は静かだった穴に突き落とされた。無理やりに。強引に。そして蘭は主に引き上げられた。魂たちは私が穴に完全に入ったあとに、自らを使って穴を覆い隠してしまった。蘭の姿も隠される。蘭の、姿が、私の視界から完全に消失した。
蘭の気配すら、もう感じない。
「蘭っ!!!!」
呼びかけても、返事はない。
黒でも白でも透明でもない空間に投げ込まれ、頭も体も心臓も感情も魔力もがちゃがちゃに潰される。そうして全て壊されて、全てが再編成される。視界が編み上げられていく。ぼんやりとした視界が表した世界は随分と見なれたもの。穴ぼこだらけの空。ぐにゃぐにゃの地面。ふわふわと鬼火が浮いて、オカシナヒトが往来して、ヘンナコナ屋台がポツポツと建っている。
「珍しいお客さんかな? こんばんは」
まぶたごと眼球が抉られた金髪の少年が、口元だけで笑いながら、倒れて寝そべる私を見下ろしていた。
「初めまして。ボクはラプラス。この[霊道]の案内人だよ」
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