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253.バカセカ番外編スレ
 ┗89

89 :やっきー
2022/11/13(日) 03:28:24

《蘭視点》

「あなたは、だれ」

 女性にしては、年齢にしては、高過ぎずむしろやや低く心地のいい声がぼんやりとした意識の中に吸い込まれていく。
 目を閉じていたのか開いていたのかはわからないが、おれは目を開けて彼女を見た。彼女はその言葉をおれに向けて言ったわけではない。彼女の目はおれに向いていない。おれに気づいているのかすら、わからない。

「こんばんは、初めまして。ボクはラプラスだよ」

 日向と対面している彼、ラプラスはおれに気づいた。しかしこちらもおれを見ているのかどうかはわからない。それを知るための道具、眼球は綺麗に無くなっていた。周囲の肉がえぐれていることはなく、くり抜かれたように眼球だけが失せていた。
 おれはここ、[霊道]に来たのは初めてではない。数は少ないが初めてではない。だがあんなやつは初めて見た。金髪の少年。身につけている服はなぜか認識しづらく、ただ左手に黒手袋をつけていることだけ確認できた。
「蘭」
 日向がおれを見た。
「おかえり」
 ただいま、と返す前に日向はラプラスの方を向いてしまった。振り向いた日向の顔に微かな笑みが残留していたことが妙に脳裏に焼き付いている。そうか、日向もラプラスの存在は知らないんだ。おれはそう察した。
「今日は珍しいお客さんが多いなぁ」
 その声を聞いた瞬間、ぞくっと背筋に悪寒が走った。その次に頭が疑問符に覆われる。日向は気づいてない、のか? 日向は家族を、カゾクを大切にしようとする。もし気づいていたら笑みなんて浮かべないはずなんだ。気を取られている。未知の存在に気を取られている。好奇心に侵されている。だけどおれは気づいてしまった。

 ラプラスの声は、花園朝日――日向の弟の声とよく似ている。

 ああ、そうだ、気づいてみたら確かにそうだ。身長はラプラスの方がかなり高いが、くるくるの癖毛や顔立ちが酷似している。おれが知っている朝日くんをそのまま大きくしたみたいだ。なにが起こっている? 朝日くんのドッペルゲンガーだろうか、いやいやまさか。しかしここは[霊道]だ。世界の中でも有数の『なんでもありの場所』だ。頭から否定はできない。でも。

 違う、と。頭の中で。『誰か』が言っている。

 あれは花園朝日だと。花園朝日、本人だと。

「ああ……」
 無意識に声が漏れた。
 なぜなのかはわからない。いつから朝日くんはここにいたのか。どうして朝日くんが『神』になったのか。なぜなのか、わからない。ただわかることは。
 おれはこのとき、近い未来を予知した。神ではない人間としての想像力で時代の終着点を見つけ出した。
 その決定してしまった未来に、気づいてしまった決定に、思いを馳せている時間はそんなになかった。おれは後ろを見た。日向から目をそらすためか、単にソレを見るためだけか。どちらだろうか。
「ルル」
 ソレを見た。ソレを呼んだ。奇抜な七色の衣装は脱がれている。特徴のない平々凡々な容姿の、到底神には見えない黒髪の女。ここはおれたちの、日向の世界のはずなんだが、どうしてルルがいるんだ?
 まさかラプラスが呼んだのか?
「そうだよ」
 ラプラスはおれの心を読んだ。
「ボクは皆を愛している。それが神としての役目だもの」
 神はにこりと笑った。ようやく日向がまともにおれを見た。
「蘭」
 もう笑みの欠片は粉々に砕かれて散ってしまっていた。ゆっくりラプラスの顔を見て、もう一度おれを見て、嗚呼、気づいてしまったのか、日向は泣きそうな顔でおれを見た。もしかしたら日向はラプラスが朝日くんであることに気づかないようにしていたのかもしれない。おれというきっかけによって、明確に意識に植え付けられてしまったのかもな。朝日くんが神になることを。『日向のせいで』。
「なんで」
 日向が問う。救いを求めるように。
「さあ?」
 神は意地悪そうに微笑んだ。
「帰り方、わからないでしょう? さっきの川、変に渡ると死んじゃうよ。ボクはラプラス。[霊道]の案内人。ボクは案内人として神として、君たちを愛し、元の世界の元いた場所に返してあげよう。ね、悪くない話でしょ? ここをよく知らない君たちは、運が良くなかったら永遠に神隠しに遭ったままだよ」
 神はパチンと手を打った。
「はい決定。あ、安心してよ。[霊道]は全ての世界に通じている。君も安全に送り届けてあげるから。
 ね、なにか挨拶でもする? 挨拶って大事だよ。不可思議なセカイを共に渡った関係だもんね。別れの挨拶でもどう? どう?」
 あどけなく神はおれたちに勧める。話すことなんてないんだけどな。神の様子からしてなにかは話さないと解放してもらえなさそうだ。

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