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253.バカセカ番外編スレ
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94 :ぶたの丸焼き
2022/12/10(土) 19:35:26
『スヴェンへ』
そう書かれた封筒を係の人から受け取って、わたしは自分の部屋に戻った。淡い黄色の封筒。わたしはもっと鮮やかな黄色が好きなんだけど、鮮やかな色の封筒はなかなか手に入らないらしい。まあ、わたしが一番好きな黄色は世界中どこを探しても一つしか存在しないから、別にいいんだけどね。どんな黄色も金には劣る。
「今日はなにが書いてるのかなー?」
自室に入り、後ろ向きにベッドにダイブしながら弾んだ声で呟く。手紙は嫌いじゃない。家族からのものなら尚更だ。家族から離れて暮らしているいま、家族のことを知れる情報源は手紙しかない。みんな元気にしてるかな?
わくわくしながら手紙を開いている途中で、ふわぁとあくびが出た。今の時刻は午前五時。早起きするために昨日は早めに寝たけど眠いものは眠い。さっき起きたばかりだし。でも仕方ない。この時間――起きてる人が少ない時間じゃないと手紙を誰かに見られるかもしれないから。そうなると、ちょっと困る。寮生活は常に人目があるから少しストレスが溜まりやすい。
白い便箋を取り出して『スヴェンへ』という言葉で始まる綴られた文字を目で追いかける。わたしの出身国[ナームンフォンギ]は放牧国家で文化は遅れ気味だけど、文字は発達してる。自分の国の歴史なんて興味ないから詳しいことは知らない。いま生きてる。それだけで十分じゃない?
「お、これはにいじゃからのだな」
文字の癖と文章の特徴からにいじゃの書いた手紙だと推測する。先に文字の最後尾に目をやると、『兄より』と書いてあった。やっぱりね。
自分の観察力に満足してにやにやしつつ、今度こそ手紙を読み始める。
『先日は手紙の返事をありがとう。家族全員で読んだよ。父さんと母さんは相変わらずだけど、その反面スヴェンからの手紙を楽しみにしてるみたいだ。いつか仲直りしろよ!』
「やだよー、わたし悪いことしてないもん」
思わず呟く。手紙と会話なんて変人じゃないか。誰も聞いてないんだし、いいよね。
わたしはママとパパと仲が悪い。その理由はバケガクへの入学。わたしがバケガクへ入学したいと言ったとき家族に大反対されて、特に反対したのがパパとママだった。理由は世間からのバケガクの評価があまりにも悪いから。
バケガクは世界中の教育機関の中でも群を抜いて、色んな意味で大きな学園だ。面積しかり、知名度しかり。教育体制も整っていて、かなり珍しい多種族に対応した教育機関。なのに世間からは『最悪』の評価を受けている。それがよくわかるのが、[聖サルヴァツィオーネ学園]につけられた別名。呼称とも言うのかな。本当、びっくりするくらい評価は悪い。入ってみるといい学園だけど。学校行事で死者が出たりするからそれもあるのかな。
バケモノ学園、略してバケガク。バケガク生徒は一人として漏れずにバケモノだ。つまりわたしもバケモノということになる。パパとママはそれを許さなかった。娘がバケモノというレッテルを貼られることが耐えられなかったみたい。そのワケがわたしへの心配の念からだったから、それは嬉しいと言えば嬉しかった。
でも、わたしはどうしてもバケガクに入学したかった。しなければならなかった。
わたしは机の引き出しに手を掛けた。肌身離さず持っている鍵穴に鍵を入れて、カチリと開ける。ドキンドキンと鳴る心臓を握りながら、その鼓動を感じながら、そろそろと引き出しを引いた。中に入っている古ぼけた新聞。新しくなくなった、ただのブン。くしゃくしゃになったブン。
これを毎朝見ないと一日が始まった気がしないんだよね。でも持ち歩けないから、《森探索》とか《サバイバル》とか、数日寮に戻って来れない時は本調子が出ない。失くしたり破れたりしたらもう生きていけない。仕方ないから鍵を持ち歩いてる。気休め程度の、お守りみたいなものかな。
鍵を置いて、両手で広げたブンを持つ。
そして、そのまま新聞に頭を突っ込んだ。破けないように気をつけながら、でも少し強く。クシャァと、か弱い悲鳴をあげてすぐに大人しくなった。
「すー……はー……すー……はー……」
薄くなったインクの匂い。柔らかな紙の感触。それから、これと初めて出会ったときの高揚感。
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