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253.バカセカ番外編スレ
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95 :ぶたの丸焼き
2022/12/10(土) 19:37:02
『おーい、新聞読むか?』
毎日国中を家ごと歩き回っているわたしたちは新聞が手に入ることは滅多にない。たまに地面に落ちていたり新聞売りから買ったりして手に入れる。毎日はちょっと厳しい。だから仕入れる情報は大半が遅れたものだ。
『読む読む!』
その日はにいじゃが行きずりの人から新聞を譲ってもらって来た。よその国のことに興味があるわけじゃないけど、少し退屈な日常のほどよい刺激になる。なのでわたしは、わたしたち家族は新聞が手に入ると全員なんとなく目を通していた。
こうしてわたしは貴女と出会った。
『キャアアアアッ』
しばらく新聞を読んでいると、叫んでしまった。小さく。新聞を持って来てくれたにいじゃもわたしが新聞を読んでいるうちにどこかに行っていた。だからわたしの叫びは誰も聞いていなかった。それでも念の為周囲を確認した。わたしはいわゆる大家族で、いないと思ってもいつもそばには誰かいる。幸いそのときは誰もいなかった。あとから知った。外でちょうど雨が降っていて貴重な水分を確保するために全員家から出ていたんだって。わたしは新聞を読んでいたから声を掛けられなかったんだ。気が利くじゃんって思ったっけな。
わたしは再度目を落とした。無論新聞に。大きく書かれた見出しを見て、細々と記された文字を見て、印刷された絵を見て、自分が歓喜に抱擁されているのを感じた。快楽にも似たあの高揚を、わたしは一生忘れることはないだろう。
『《白眼の親殺し》』
『呪われた白眼の子』
『清い[大陸ファースト]に生まれた〈呪われた民〉』
『花園日向』
流れる涙をそっと拭いながら、わたしはその文言たちを拾い上げた。そうか、いま、貴女は花園日向という名前を与えられ、その名前で暮らしているのね。
『やっと見つけた』
記事には花園日向に関する情報がたくさん載っていた。花園家のこと、家族構成、花園日向の通う学園。そうか、[聖サルヴァツィオーネ学園]に行けば花園日向に会えるのか。『いまはそんな名前で呼ばれているんだ』。
こうしちゃいられない。一刻も早く[聖サルヴァツィオーネ学園]に、[バケガク]に行かないと!
家族にこの気持ちを訴えると、猛反対を喰らった。意外だった。意外ではなかった。学びたいという感情を否定されるとは思わなかった。入学を反対されるのは初めてではなかった。
アナタタチの意見なんて聞いていないんだけど?
『どうしてわざわざバケガクに行きたいんだい?』
『他の学校は学費が心配なの? 確かにあそこは在学中にかかる費用がほとんど免除されるって話だけど』
『そんなの俺たちでなんとかするさ! いままで必要なかったからしてなかっただけで、やろうと思えば出稼ぎにだって行けるし!』
『そうだよねえじゃ。こわいところにいかないでよぉ……』
『スヴェン、考え直しなさい。バケモノが蔓延るあの場所では、毎年死者だって出ているって話よ?』
『あなたのことが心配なの』
みんな、口を揃えて心配だと言った。
でも。
『やだ!!』
折れるわけにはいかなかった。わたしにはわたしの正義がある。わたしはわたしが一番正しいという意識があった。
『わたしはバケガクに行くの! 邪魔しないで!!』
『スヴェン!』
パパの怒鳴り声。負けるもんかとさらに声を張り上げた。
『別にいいよ! 勝手に出ていくからーっ!!』
『待ちなさいスヴェン!』
ママの静止の声を無視して目をやると、兄弟姉妹たちがわたしのほうきを隠そうとしているのが見えた。そんなのなくたって、空くらい飛べますよーだ。
『スヴェン、どうしたのよ! らしくないわ』
悲しそうなねえじゃの声に一瞬だけ時間を止められたけど、次の瞬間わたしの足は動いていた。
『待て!』
『待つわけないでしょ!』
わたしは新聞を掴んで外に出た。雨が降っていた。空までわたしを止めていた。嗚呼、貴女もわたしに来るなと言うのですか? そんなの無駄です。わたしは貴女に仕えたい。
わたしは風使い。雨を弾いて新聞が濡れるのを防ぐ。そのとき新聞に一枚の厚い紙が挟まっていることに気づいた。いや、これは封筒?
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