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253.バカセカ番外編スレ
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96 :ぶたの丸焼き
2022/12/10(土) 19:37:36

 それはバケガクの『案内状』だった。なぜ、いつのまに、どうやって。そんな無数の疑問符を払い除けてわたしの思考の中央に堂々と腰を休めたのは。
『これでバケガクに入学できる』
 弧を描いた唇で、空気を振動させた。
『スヴェン!』
『待って!』
 後ろから声が聞こえてくる。雨の中、構わず両親がやって来る。わたしたちは雨が嫌いじゃない。雨に打たれるのは嫌いじゃない。わたしも雨は嫌いじゃない。
 わたしの邪魔をするなら、あなたたちは嫌い。
『これ、もらっていくね』
 立ち止まって、振り返って、新聞を掲げて呟いた。走って来る兄弟姉妹が猛烈な雨に掻き消される。向こうからもそれは同じはず。それでも彼らはわたしを見失わずに駆けてくる。愛されてるなぁ、わたしは。さっきよりも雨が強くなった。髪はもうびちゃびちゃだし、着ていた伝統衣装は皮膚にぺったり張り付いている。靴の中にも雨が侵入してぐちゅぐちゅだ。

 水の礫が皮膚を打つ。髪から水が垂れてくる。目から水が落ちた。涙みたい。なんか、やだな。
 悲しいくらい、悲しくない。愛する家族との別れが。
 当然だ。だって奴らは家族じゃない。わたしの家族はたった一人だけ。わたしは貴女だけを愛してる。わたしは貴女の信者。

 バケモノだと認めさせれば、あなたたちも納得する? 納得させる義理もないけどこれまで育ててもらったからほんの少しの情はある。だからわたしは別れの笑みを浮かべた。
『ばいばい、家族』
 どういう顔をすれば狂気を感じさせられるのか。知ってるよ。たくさん経験してるから。
 わたしは天に穴を開けた。強力な風魔法、に見せかけた他のマホウ。雨は上がった。晴天がわたしに微笑みかける。空に空いた巨大な円形から差す陽光が、天使の梯子が、きっとわたしを神々しく見せていることだろう。これで認めた? わたしはバケモノ。この世に存在するには、少しおかしな存在。
 ふわ、と浮かんで雲の上へ飛び立った。滴る雫が乾いた大地に触れる。穴が空いているところ以外は当然雨が降っている。でも雲の上は晴れている。当たり前。太陽の光をいっぱいに受けながら、ゆっくり前進する。そのとき気づいた。

 あ。バケガクの位置ちゃんと知らない。

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