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253.バカセカ番外編スレ
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98 :ぶたの丸焼き
2022/12/10(土) 19:38:15

「オハヨウゴザイマス」
 蘭が何か言おうとしたところにネイブがやってきた。腰の下くらいのところからキラキラとほのかに光る青い頭が見上げてくる。いつの間にこんな近くにいたんだろ。
 青い頭って比喩じゃなくて本当に青いんだよね。全身真っ青。なんていうんだっけ、ピクトグラム? そうそうあんな感じ。トイレのあれ。全体的に丸みを帯びたころころした姿をしているからかわいいマスコットとして扱われる。わたしもそう思ってる。実際はこのⅢグループ寮の職員さん。
「おはよー」
 わたしはネイブにそう返す。実はさっき会ってそのとき挨拶もしたんだけど、手紙をいつ受け取っているかは蘭にも内緒だから気づかれないように、ね。
「おはようございます」
 蘭は丁寧に挨拶を返した。育ちはいいよねー。育ち『は』。
「なんか言ったか?」
「別にー?」
 勘が鋭いな。怖い怖い。そんな顔で見ないでよ。
「キョウモナカガイイデスネ」
 ネイブはカクカクした声で言った。そう見えるんだね。悪くはないと自分でも思うよ。
「蘭はわたし以外に仲良い人いないからね。まあ仕方なく? 仲良くしてあげてるっていうかー?」
「へー。じゃあもう朝起こしに行ってやんねーからな」
「わああっ! それだけは勘弁すみませんでした!!」
 こんなやり取りを見てネイブは愉快そうな雰囲気を出した。愉快? ちょっと違うか。微笑ましそうにわたしたちを見てる。ネイブには目がないからほんとにそうかはわからないけど。
「イッテラッシャイマセ」
 ネイブがそう言って手を振ったので、わたしは右腕を大きく動かした。
「行ってきまーす!」

 Ⅲグループ寮の最寄りの馬車停に行って定期便に乗る。そこそこの広さがある馬車には満員ではないにしろたくさんの人が乗っていて、わたしたちが座るスペースはなかった。残念。
 ただ立っているだけというのはつまらない。目的地に着くまで時間もあるし。こういうときは窓から外の景色を眺める。
「あ。ねぇねぇ蘭。見て見て」
「ん?」
 蘭に声を掛けて、わたしは視界に映ったものを指した。
「[四季の木]。ちょっと赤くなってる気しない?」
「ほんとだ。もうそんな時期か。早いな」
「ねー。もうすぐで秋なんだね」
 色々変なものがあるバケガクの中でもわたしは特に[四季の木]が好き。四季折々の代表的な木をまとめたみたいなヘンテコ樹木。春には桜が咲いて、夏には新緑をつけて、秋にはもみじに変わって、冬には銀色の実を生らせる。
 ふふ、懐かしいな。わたしが初めてあれを見たのも、ちょうどこれくらいの季節だった気がする。もうちょっと気温は低かったかな。勢いで[ナームンフォンギ]を飛び出して、ほとんどなにも持たずにさまよって、道行く人にバケガクへの行き方を聞いて回って。大変だったけど楽しかった。
 やっと赤茶色の大木を見られたときは達成感に満ち溢れた。目を閉じればすぐに思い出せる。

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