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283.短編小説のコーナー
 ┗174

174 :げらっち
2023/08/27(日) 00:01:50

忘れもしない。
茹るような暑い日。俺は学校に遅刻しそうになって、急いでた。表から入ると先生に見つかって怒られるから、裏の階段からこっそり上がって教室までショートカットしようと思った。これなら出席を取り始める前にギリで教室に着くかもしれない。よく使う手だ。
裏の階段はひっそりしていてひとけが無い。ダッシュで上がろうとしたその時、人影が目に入った。

階段の中腹に座って、うずくまっている。顔は見えないが、間違えるわけない。

令だ。

一瞬、普通に声を掛けそうになった。でもすぐに気付いた。
令は死んだ。
身震いして、全身を冷たい血が駆け巡った。鳥肌が立ち毛が逆立った。心臓がすごい速度で脈打っている。

幽霊だ。

どうしよう。

麻痺した頭脳でも考え続けることができたのは、遅刻して先生に怒られるのは嫌だという、平凡な事だけだった。俺は止めていた足を動かし、令の隣を横切って、階段を上がろうとした。
すれ違いざまに、俺は令を見てしまった。まずかった。令は顔を上げて俺を見た。目が合った。令が何か言おうとした。やばい。俺は無我夢中で足を回転させ、階段を駆け上った。意識が無くなるくらい走った。次の瞬間、教室に着いていた。遅刻していた。先生に怒られた。

1・2時間目のことはよく覚えていないが、時折背後から視線を感じては、振り向いていた。

30分休みになった。
裏の階段には、絶対行ってはいけないような気がした。
でも気になるのは、令が何か言いかけていたことだ。令は何かを訴えたかったのかもしれない。令は俺の親友で、俺は令の親友だ。俺に伝えたかったことを、無視するわけにはいかない。
俺は恐る恐る、裏の階段に向かった。
その時、俺にとって都合の良い様な考えも浮かんでいた。もしかして、あれは急いでいた俺の見間違いだったのかもしれない、と。夏の揺らめきの生み出した、幻だったのではないかと。

令はまだそこに居た。
先程そうしていたように、うずくまっている。
その姿を見た瞬間、心臓の鼓動が早くなった。やはり見間違いなんかでは無かった。
俺はすうっと息を吸うと、それでも落ち着かない胸の高鳴りを隠すこともできないまま、階段を降りて行き、令と同じ段までくると、話し掛けた。

「よぉ、令」

馬鹿げている、そんな言葉が、俺の頭をよぎった。
それでも令は、顔を上げて、俺を見て、答えた。

「カンタ」
令は俺の名を呼んだ。
令は、生きていた時のそのままの姿だった。足もあれば、服も着ている。大事に飼っていた金魚が死んでしまった朝のような、落ち込んだみたいな顔して、そこに居て、そして言った。
「どうしよう」
俺は心臓をバクバクさせながら、次の言葉を待った。
「僕の席が無いよ」
一瞬、何のことかと思ったが、すぐにわかった。
教室の机は、令の分は片付けられてしまったのだ。令の席は、もう無いのだ。
俺は言った。
「だってお前、死んだじゃん」
令の目が、天を仰いだ。そして言った。
「あ、そっか」
そして令は消えた。

俺は叫び出しそうになった。

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