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283.短編小説のコーナー
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192 :ベリー
2023/12/05(火) 22:54:46

頭からルレザンの体温を感じる。まるで大切なものを触るかのように丁寧に、ルレザンは髪を梳く。そんなこの時間が、ストレーリチアは好きだった。ルレザンが髪を二つの房に分け、その片方を更に三つに分けたその時。

「いやあぁっ!!」

 孤児院に悲鳴が轟いた。ルレザンは髪を梳く手を止めすぐさま悲鳴の方へ向かう。自分に何も言わず走り去ったルレザンに、ストレーリチアはため息をつく。
(相変わらず正義感が強い人。でもそこがいいのですけれど。でもでも、なにか一言置いていってもバチは当たらないでしょう)
 ルレザンには自分だけを見て欲しい。彼の優しさも義侠心も自分だけのものにしたい。けれど、自分以外の人を疎かにするようなルレザンなんて、そんなのルレザンではない。見たくない。矛盾した己の感情に、ストレーリチアは頬を膨らませた。
(ルレザンは私だけのヒーローでいいのに……)
 ふと、背後から足音がした。悲鳴が聞こえたにも拘わらず呑気なストレーリチアは、無防備にゆっくり振り向いた。

「──え」

 突発的に溢れでた驚きが声となる。息が詰まる。ストレーリチアはその栗色の瞳を丸くして、呼吸を止めた。

「ちあ、ちゃん──」

 目の前には、ストレーリチアの友がいた。しかし様子がおかしい。黒髪だった彼女の髪は脱色していて、瞳も色が抜けて血の色に染まっている。
 食人病の初期症状。ストレーリチアの頭にはそれが一番にうかんだ。しかし、

「いや、なんで──」

 受け止めることはできなかった。物心ついた時から一緒に孤児院で過ごした友。家族と言ってもいい存在が、食人病に犯されてしまった。その衝撃は計り知れない。
 その友の口からはボタボタとよだれをたらしている。その虚ろな赤い瞳にはストレーリチアしか映っていない。

「お腹が、すいて……。ちあちゃん、お願い。逃げ、て」

 ストレーリチアは先の展開が読めた。しかし体は動かない。日々恐れていた食人病の魔の手が現れた衝撃と、友が病に感染したというショックと、その友が自身を食料として見ているという恐怖と、絶望。

「嫌っ、そんなの、いや──」

 ストレーリチアのか細い声。世界に届けと、半ば救いを求めるように絞りだされたその声は、誰にも聞こえない。
 友が地を蹴る。ストレーリチアは、その首を友に噛まれた。

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