Yahoo!ショッピング

スレ一覧
283.短編小説のコーナー
 ┗20

20 :迅
2022/06/30(木) 21:15:59

 『恥知らずの騎士』こと石動竜真《いするぎりゅうま》は、理事長室に向かって一人で歩を進めていた。
 周囲から刺すような視線が飛んで来るが、喉元過ぎれば熱さを忘れると言うように、一年も過ぎればその視線の数々も、もはやステージ中央に立つアイドルを照らすスポットライトにしかならない。と言うか、これから起こる事を考えると、その程度で一喜一憂するわけにも行かないのだ。

「おい、『恥知らず』が来たぞ」
「アイツ、どのツラ下げてここに来てんだよ?」
「マジ退学してくんねーかな〜、居られるだけで士気が下がるわ」

 聞こえないフリをしているのを良い事に、生徒達は口々に彼の悪口を言い続ける。
 廊下の真ん中を歩くだけで注目を集める人物となると、学園長か生徒会長か、落ちこぼれのどれかだろう。尤も、その視線も立場によって全く違う意味を成すのだが。
 羨望、尊敬、侮蔑
 ───人の目は、口以上に物を語る。
 どれだけ良い顔を繕っても、洞察力に長けた者であれば、声のトーンや眼の動きから言葉の真意を見抜くことは、そう難しい事でもない。
 周囲の視線や小言を気にせず、竜真は理事長室の扉をノックして入る。
 中には、恩人である現理事長・上條玲奈《かみじようれな》が待っていた。

「来たか、『恥知らずの騎士』」
「……聞き慣れた汚名でも、恩人に言われると流石に響くんですよねぇ」

 玲奈の一言にも顔色を変えず、竜真は苦笑いを浮かべる。
 それでも反論しないのは、玲奈は竜真がマトモに暮らせるようにしてくれた大恩人だからだ。強姦冤罪で捕まりそうになった時も、退学ではなく留年が受理されたのも、彼女の影響が大きい。
 そう言う事もあり、竜真は彼女に対して頭が上がらないのだ。
 その為、定期的に理事長室に呼ばれる羽目になったのだが。

「最近はどうだ?」
「相変わらず、いじめられっ子やってますよ」
「まぁ、そんなところだろうな。……ところで、そろそろ『闘覇祭』が始まる訳だが、お前は参加するのか?」

 扉を閉めると、唐突に玲奈の質問が飛んで来る。
 『闘覇祭』。
 それは、4500名いる全校生徒が、『東軍』と『西軍』に分かれ戦う、蓬莱学園最大規模の一大イベントだ。この祭典は毎年4回、三日かけて開催され、今月開催されるのは、前期の締め括りである『夏の陣』に当たる。
 そして、卒業間際の2月頃には、一年間の総決算である『冬の陣』が開催される。
 この祭典には、一般人や現場で活躍しているプロの騎士が来ると言う事もあり、普段は怠けている学生も、その日ばかりは本気で闘いに臨んでいる。素晴らしい実績を残したり、両軍を率いる『総大将』や幹部を務めれば、現役騎士や大手企業直属のスカウトが来る事だってある。
 その点を踏まえると、闘覇祭が開催される期間中は、彼ら若しくは彼女らにとって、まさに運命の一週間と言って良いだろう。

[返信][編集]



[管理事務所]
WHOCARES.JP