スレ一覧
┗
283.短編小説のコーナー
┗21
21 :迅
2022/06/30(木) 21:46:27
下手に難しい試験を受けるより、己の実力を見せつけるに越した事はないからだ。
「……あぁ、もうそんな時期ですか」
しかし、この少年だけは違った。
石動竜真は、闘覇際に対して一切の興味を持っていない。
何故なら、決闘から逃げ出した『恥知らずの騎士』など、スカウトするだけ無駄だからだ。寧ろ、スカウトしたらしたで、その企業にとっては汚点にしかならない。
それ故に、定期的に来る推薦票に竜真の名前はなかったし、それ関連で職員室に呼ばれた事は一度もない。大一番で情けない姿を晒した男に惹かれた騎士もいる筈がなく、彼は誰からも興味を持たれる事がないまま、実りの無い不毛な一年間を過ごす事になったのだ。
まぁ、自業自得と言えばそれでお終いなのだが。
とは言え、「頑張っても意味ないなら、別に頑張らなくても良いじゃん?」と言うのが彼の見解であり、彼が闘覇祭の参加に消極的な理由だ。
「……辛くなったら言えよ?すぐに退学届を出してやるからな」
「うーん、退学する前提で話進めないで貰えます?」
「ん?違うのか?」
「普通に考えて違うと思いますけど!?」
───それに、今回はチャンスなんですよ。
と、竜真はポツリと言う。
彼が逃げ出したのは、去年の夏の陣での大将戦。当時二年でありながら東軍の総大将を務めた竜真は、メンバーから輝かしい期待と、鉛のような重圧を寄せられていた。
竜真の敵前逃亡により、東軍はあえなく敗退。それまでは優位に戦況を進めていたものの、彼の失態一つで大きく逆転を許してしまったのだ。その時は、『仕方なかった』と言う事で無罪放免となったが、冬の陣となるとそうも行かない。
冬の陣は三年にとって最後の闘覇祭であり、彼らの今後を決める分岐点であり、今迄注目されて来なかった者にとっての、最後のチャンスだからだ。
その時は西軍の中堅として参加したが、不調と八百長が相待って敗北せざるを得ず、結果的に自軍を敗北に導く事となった。
もちろん弁明しようと試みたが、誰も耳を貸そうとしない。
それ以降、竜真は晴れて不名誉この上ない『恥知らず』の異名を頂戴し、全校生徒から煙たがられるようになった。
まるで、彼女と逆の人生を歩むように。
「あいつに謝らなくちゃいけないし、今年こそはマジにやりますよ」
竜真は絞り出すように、ぎこちない笑みを浮かべて言う。
彼女の誇りを傷付けてしまった今、彼に出来るのは謝罪だけだ。
下っ端の使い走りでも構わない。
彼女に一言謝る事が出来るなら、それでいい。
それに、二年である彼は今回を含めると四回、闘覇祭に参加出来る。だが、三年の彼女は今回の夏の陣を含めても、あと二回しか無いのだ。
竜真は壁をもたれかかり、天井を見上げながら続ける。
[
返信][
編集]
[
管理事務所]