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283.短編小説のコーナー
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26 :迅
2022/07/01(金) 14:59:04

 故に、着いた二つ名を『雷電女王』。
 彼女の才能と、鬼神の如き闘いぶりから、畏怖と尊敬の念を込めて付けられた二つ名。
 彼女は全校生徒から慕われているが、同時に恐れられてもいる。彼女の怒りに触れようものなら、一瞬のうちに切り刻まれると言う、脅し文句が生まれるくらいに。

「あ、あの、会長。荷物、お持ちしますか?」
「お気持ちだけ頂戴します」
「会長、昼の会議ですが……」
「今は多忙ですので、草加さんに向かわせます」
「か、会長!お誕生日……おめでとうございます!」
「後にして頂けますか?今は雑用に割いてる時間はないので」

 次々とやって来る生徒達に対応しながら、彩華は生徒会室の扉を開ける。
 そして机の上に書類を置くと───

「あぁ〜ん!疲れたぁ〜!」

 溜まっていた本音を盛大にぶちまけた。

「もうやだぁ〜!生真面目生徒会長やだぁ〜!彩華、コーヒーじゃなくてタピオカ飲みたい〜!」

 机に突っ伏し、言いたい事を叫ぶだけ叫ぶ。
 キャラ崩壊も良いところである。

「……そんなに疲れるなら、素で行けば良いのに」

 漫画を読みながら彼女を慰めるのは、副会長である木美月蓮《きみづきれん》。情報収集を得意としており、自ら前線に立つ事は少ないが、裏方作業で彼以上に頼りになる者はいない。

「そうですよ!アヤセンパイは可愛いんだし、きっとモテますよ!」

 トレーニング機材をガシャガシャ鳴らしながら励ますのは、会計を務める柳瀬清丸《やなせきよまる》。こんな名前だが立派な女子であり、二年生にして学園三位の実力者だ。
 二人の言いたい事も分からなくはないが、彩華は自身が『雷電女王』として周囲から畏敬の念を集める事で、蓬莱学園の平和は保たれていると考えている。その考え自体は間違っておらず、事実彼女が生徒会長となってからはある一例だけを除き、蓬莱学園の生徒による一般人への暴力沙汰や、生徒間での大規模な喧嘩の数は見る見る内に激減した。
 それも全て、彼女が『雷電女王』として粛清に回っていたからだ。
 情け容赦の一切を無くし、冷酷に振る舞わなければならない。
 『一ノ瀬彩華』は全校生徒から慕われる生徒会長であり、『雷電女王』は、学園内の人間から畏怖される存在でなければならない。
 この身一つで学園内の平和が約束されるなら、それは生徒会長として本望と言うもの。

「私が恐がられてるから、この学園は平和なんだよ?それなら───」
「それは違いますよ、彩華さん。あなたの身体一つで、この学園の平和が保たれている訳ではありません」

 彩華の口から出かけた言葉は、背後からの声でかき消される。
 その声の主は、つば広帽子を被ったお嬢様然とした装いの少女・桐生院佳奈子《きりゅういんかなこ》。生徒会書記を務め、彩華に次ぐ学園二位の騎士。
 時には『特務騎士』として、彩華と共に犯罪者の鎮圧に出る事もある。
 彼女とは小さい頃からの付き合いで、一人で全てを背負い始めようとした彩華の良き理解者だ。

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