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283.短編小説のコーナー
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27 :迅
2022/07/01(金) 21:26:46
佳奈子は彩華の背後から手を回し、優しく抱きしめる。
「この学園が平和なのは、生徒達の協力があってこそです。貴方一人の責任でもなければ、貴方だけの使命でも無いのです」
そして、まるで子供を諭す母親のように彼女は告げる。
しかし、彩華の方から帰って来たのは、歯切れの悪い返事だった。
「分かってる、分かってるよ……。でも、私がちゃんとやらなきゃ、アイツはいつまで経っても認めてくれないんだもん……」
彼女は、自身の思いを打ち明けるように言う。
彼は、常に彩華の事を第一に考えてくれていた。同時に不治の病に侵されていた幼少期の彼女は、彼を必然と頼らざるを得なかったのだ。
だが、今は違う。
不治の病に見事打ち勝ち、剣の腕を鍛え、13歳になる頃には、本気の大人に勝てる程に成長した。
それなのに───
「それなのに!なんでアイツはあんな醜態を晒した訳!?」
先程の落ち込みようはどこに行ったのか、彩華は頭をぐしゃぐしゃと掻きむしる。それ程までに、あの決着のつき方に対して、彩華は納得していなかった。
当たり前───と言えば当たり前だろう。
相手の試合放棄による勝利など、偽りの勝利でしか無い。
「しかも、あろう事かアイツは!まるで何事もなかったかのように平然と接して来たんだよ!?」
彩華の怒りに呼応するように、蒼白い稲妻が彼女の身体から迸る。
行き場のない怒りが充満し始める中、平静を取り戻した彩華は小さくため息をつくと、意中の男性への想いを絞り出すように呟いた。
「……私は、アイツが逃げた理由を知りたい」
───そして、本当の意味での決着をつけたい。
目尻から蒼い雷光を靡かせながら、彩華は続ける。『恥知らず』と呼ばれた幼馴染・石動竜真が、自分の前から逃げ出した真相を知り、それを理解した上で、完膚なきまでに叩き潰す。
それが、今の自分が出来る最大限の恩返しなのだから。
「私が闘覇祭に参加出来るのも、今回を含めてあと二回……最後くらい、アイツにも華持たせてやりたいじゃん?有終の美……なんて言うつもりは無いけどさ」
先程までの迷走ぶりが嘘のように、彩華は凛とした表情で言う。
その為にも、今月開催される『夏の陣』では、西軍総大将を務める『一ノ瀬彩華』として、蓬莱学園一位の座に君臨する学園最強の騎士・『雷電女王』として、もう一度自分に挑んで来るであろう『恥知らずの騎士』と、全力を以って対峙しなければならない。
きっと───いや、あの男は絶対に東軍総大将の座に返り咲き、私を待ち構えるだろう。
そうなった暁には、彼は数多の人間を味方につけている筈だ。
彼女は椅子から立ち上がると、今最も信頼に足るメンバーの顔を見渡し、彼らに伝える。
「私は、石動竜真に完膚なきまでに完璧な勝利を収めたい。だから───」
私に、力を貸して下さい。
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