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283.短編小説のコーナー
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35 :露空
2022/08/04(木) 20:29:43
一話
どうしてこんな事になったんだ―——絶対死なせない。私が必ず守ってやるのだ。
大怪我を負ったふろ禰をおぶって、雪の降る道無き道を駆けていた。
炭を背負い子に入れ、町に売りに行く用意をしている時。
「炭げらっち、顔が真っ黒ですよ。拭きますからこっちへ」
その優しい声に甘え、雪華のもとに寄った。
「雪が降って危ないですから行かなくてもいいんですよ?」
「大丈夫だ。正月になったら皆にたくさん食べさせてやりたいのだ」
ありがとう、と言われると、家の裏から弟妹達がやってきた。
「炭げらっち兄ちゃん、町に行くの?」
「私も行きたい!」
「だめよ、あなた達は炭げらっちみたいに速く歩けないでしょう?それに、今日は荷車を引いていかないから乗せてもらって休んだりできないんです」
たしなめても駄々をこねる弟達と見送ってくれる雪華に行ってきますと告げ、町に歩きだしていった。
「お兄ちゃん!」
家から少し離れたところをふろ禰がゆっくり歩いていた。六太を寝かしつけてたんだ、と静かに言う。
「お父さんが死んじゃって寂しいんだと思う。だから甘えん坊なのかな」
行ってらっしゃいと見送られ、手を振る。
生活は楽じゃないが、幸せだ。
でも。
幸せが壊れる時はいつも、血の匂いがする。
炭も全部売れ、頼まれた手伝いも終わらせて帰路に着くと、三檸檬に呼び止められた。
「今から帰るの?泊めるからやめなよ」
「私は鼻が効くから大丈夫なのだ」
「いいからこっち来て。鬼、出るよ」
根負けして三檸檬宅の中に入ると、かなり柑橘類の匂いがした。出された料理も檸檬という柑橘が使われたハイカラなものだった。「明日早起きして帰ればいい」と敷いてくれた布団もやはり柑橘の匂いがした。
寝る前に話をした。
「鬼は何をするのだ?」
「人を襲い、喰べる」
「鬼は家の中にまで入ってくるのか?」
「うん」
「皆、鬼に喰われてしまう……」
「そうならないように、『鬼狩り様』が鬼を斬ってくれるんだ」
朝。檸檬屋敷を後にして我が家に向かっていく。雪は今のところ止んでいるが、またすぐに降りそうだ。
幸せが壊れる時は、いつも…………
「っ!血の匂い……!」
慌てて家に近づくと、私は信じられない光景を見た。
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