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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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104 :げらっち
2024/05/11(土) 10:11:22
《七海》
「聞いて聞いて七海ちゃん!!」
自室で朝食の明太子ご飯を食べていると、楓が叫んだ。聞きたくないと言っても聞かせてくるだろうから、聞いてと断りを入れずに本題を話した方が早いというのに。
「《オチコボレンジャー、ホームランジャー相手にまさかの番狂わせ》だって! おっきく載ってるよ!」
楓は《週刊☆戦隊学園》を広げて見せた。マウンド上で号泣する野中球の写真が載せられていた。
前まで初戦敗退するだとか、私を見ると不幸になるだとか書き並べていた癖に、随分と日和見なジャーナルだ。まあメディアなんて無責任なもんだが。
お喋りな楓の言葉を、今日も受け流しつつ聞く。
「今週だけで脱落者が相次いで残り314戦隊だって。まだスタートから1週間しか経ってないのにね!」
「そりゃあ、最初は実力の低い戦隊がどんどん振るい落とされるだろうからね」
コボレンジャーはホームランジャーを倒したことで周りから舐められなくなったのか、対戦の申し込みが殺到することは無くなった。
「冷静だね七海ちゃん。冷静なのはいいけど、時間大丈夫?」
「え?」
楓がやけに悠長なので、まだ余裕があると思っていたけど、時計を見ると8:44。
「うげ!! あと16分しかないじゃん! 何でそんなのんびりしてんの?」
「生クラ、今日は2時間目からだもん。言わなかったっけ」
「聞いてない!!」
いつもは楓が遅刻魔なのに、攻守交代の立場逆転だ。私はご飯の残りを掻っ込むと、慌ただしくパジャマから制服に着替える。
鏡の前に立つと、紺のブレザーに、グレーのスカートの自分の立ち姿が映った。黒いハイソックスで脚の露出は100パーカット。白い髪は胸に掛かるくらい。目つきの悪さは、いつも通り。
このところ私は、身だしなみにも「一応」気を使うようになっていた。いつみ先生の影響が大きいかもしれない。いつみ先生は、私がルーズな格好をしていたところで、注意しないだろう。先生自身がラフな格好をしているし。
それでも、いつみ先生に、余りだらしない格好を見せたくないのだ……
私は嫌いな白いネクタイを手に取った。
鏡の中にもう1つの虚像が割り入った。楓だ。
「やってあげよっかー?」
「いいよ! 自分でやるから」
私はネクタイを締めようとするが。
「……ごめん、やっぱやって」
「はいはい。最初からそう言えって!」
私はネクタイを結ぶのが大の苦手だ。
もともとネクタイを嫌って避けてきたから、今更挑戦しようと思ってもなかなか上手く行かない。
楓は私の正面に立つと、慣れた手つきでネクタイを整えてくれた。彼女は私の首輪に付けたリードを持っているかのようだった。たかがネクタイで、生殺与奪の権を握られている気分なのだ。彼女は優越感に浸っていたし、私はこっぱずかしい。
「できたよ!」
「あり」
がとう。
私は教科書の詰め込んだバッグを持つと、「じゃ、また放課後!」と言って部屋を飛び出した。「いってらっしゃーい」と楓の声。「夕飯はあたし作るからね! 楽しみにしててね!!」
守衛のガードレンジャーの横を通った時点で8:50。
1時間目の開始は10分後。
寮から遠く離れた校舎まで、徒歩だと30分近くかかる。かといってちょうどいいタイミングでバスに乗れるとは限らないので、バス停には寄らず、校舎の方へ一直線に走る。
あられもない姿になりながら息を切らして走っていると、私の真横を、バスが追い抜いて行った。
「あっクソ! バス停に寄れば乗れてたんじゃん!!」
私は汚い言葉を吐いた。あまり喋ると酸素を持って行かれるので、黙ろう……
下り坂を転がるように駆け降りる。自転車が何台か私を追い越して行った。敷地内を掃除するバキュレンジャーの横を通り過ぎたところで、息が上がり、立ち止まった。膝小僧に手を突いて、ハアハアと荒く息をする。この体力の無さをどうにかしなければ……
遅刻を避けたいのは、いつみ先生に、減点されてしまう気がするからだ。
それは何も成績上の話ではない。感情レベルで、いつみ先生に嫌われてしまうのがイヤなのだ。
「待てよ」
そうだ。
「魔法を使えば!」
私は変身し、ブーツに氷魔法を施す。
「アイスシューズ!」
ジャキン! 靴底からスケートシューズのような刃が生えた。その分体が持ち上がったので、身長が少し伸びた気がした。
私は足を踏み出した。地面が凍り、そこにブレードが触れた。私は氷の上を滑るように、地面をスイスイ進む。滑走しつつ足先の地面を凍らせ、更に滑走するという魔法だ。魔法は想像次第で色々なことができるから便利だ。
これなら間に合うかもしれない。
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