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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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109 :げらっち
2024/05/11(土) 10:36:00
《七海》
薄曇り。
私は校舎を抜け出し、校庭脇の森にある緑道を歩いていた。
ネクタイはもう完全にほどけていたので、結ぶのは諦めてポケットに突っ込んでいた。
どうしようか。寮に戻っても楓は授業で居ないだろうし、やることがない。
すると、チャリンチャリンと自転車のベルが鳴った。音の方を見ると、緑色の自転車に乗って、緑ジャージを着た男子が走ってきた。あれは。
「公一!!」
「いよぅ七海! こんなとこで何しとんねん」
公一は片足を地面に着いて、キュッと停車した。
何故だろうか。偶然出会えたことが、妙に嬉しい。
「授業抜けてきちゃった」
「あちゃー、不良やな七海は」
「あなたこそ何してんの? 夜の授業に備えて寝ないの?」
「いつも昼寝しとっちゃ味気ないやろ。たまには昼も外に出たいんや。ちょっとチャリで、ドライブ」
「それを人はサイクリングと言う」
そうだ。
金閣寺アホ子の謎々を出してみよう。どう答えるか、気になる。
「さぁて問題です。私みたいな熊をなんていうでしょーか!」
「はぁ? 七海は熊じゃなくて犬やろ? 誰に向かっても吠えるからな!」
「ワオーン!!」
私は公一に飛び蹴りした。
で。
「何で自転車持ってんの?」
彼が乗っていたのは普通のママチャリだ。カゴにはバッグが放り込まれており、オカンに貰ったとか言うお守りがくっ付いている。
「移動用に決まっとるやん。俺バス酔うねん。いちいち徒歩で校舎と寮往復するのもだるいし自転車つこうてんねん。戦隊学園むっちゃ広いよ。学園でチャリ貸し出しとるから、七海も借りたらいいやんか」
そういえば、たまに自転車に乗った生徒を見かけるし、寮にも駐輪場があるのはそういうワケだったのか。でも。
「それは無理なお話ね」
「何で?」
「乗れないから」
公一はあからさまにがっかりした顔をした。そんな顔しないでくれ。
自転車に乗るなんて裕福な家のやる事じゃないか。
「まあいいや。そんなら後ろ乗りーや」
「え? いいの?」
「ええよ!」
公一は自身が乗るサドルの後ろの部分を指さした。
「ここ乗るとめっちゃケツ痛くなるけどな!」
「甘んじて痛くなるとしよう」
私はスカートをまくし上げ、サドルの後ろにまたがった。
公一のひょろひょろな背中が目の前に見える。栄養が足りてるのかこいつは。
「何してんねん。出すで。早くつかまりや」
「あ、ああ。そうね」
今更だが、男子の体に触れるのは少し度胸が要る。私は公一の頼りない背を、キュッと抱き締めた。
公一が地面を蹴り、チャリが急発進した。自分が運転しているわけでもないが、風を切って疾走する初めての感覚。転倒しそうで怖い。ずり落ちないように、バランスを崩さないように、必死で公一にしがみついた。
「七海重っ!! 後ろに岩乗せてるみたいや!」
表現がド直球過ぎだ。
「あなたが痩せ過ぎなんじゃない?」
私は公一の肋骨を触った。
「何すんねんくすぐったい事故る事故る!!」
「あぶな!!」
私たちは悲鳴を上げながら、森のサイクリングを始めた。
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