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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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120 :げらっち
2024/05/11(土) 11:12:12

《七海》


 夕方になった。
 
 寮近くの森に潜んでいた私は、そろそろ行動しようと決めた。
 まさか体が入れ替わるなんて。それも、大の3乗がつくほど嫌いな、天堂茂と。
 誰に言っても信じてくれまい。そもそも、学園内に私の味方は少ない。数少ない味方であるいつみ先生は怪人退治に出ているらしいし。
 Gフォンは充電が切れて起動できなくなってしまった。肝心な時に役立たずだ。
 とにかく、楓に会いたい。あの子に会うと落ち着く。この時間なら、もう帰寮していることだろう。

 女子寮は有刺鉄線付きフェンスで囲われているが、森に隣した所に1箇所だけ隙間があるのだ。薄暗い夕暮れならバレにくい。屈み込んでそこから敷地内に忍び込んだ。
 正面から建物に入るとロビーの事務レンジャーに見つかってしまうので、ゴミ出しの時などに使う勝手口から侵入。
 廊下を恐る恐る進んでいく。しかしそう上手くも行かなかった。

「キャーーーー!! ダンシーーーーーーー!!!」

 どこから見られていたのだろう。女子の金切り声がした。
 女子寮に男子が忍び込むのは、至難の業だ。
 チェーンソーを持った猟奇戦隊セツダンジャーが廊下の奥から走ってきた。女子寮の番人と呼ばれる戦隊だ。ちなみに全員女子だ。
 おっそろしい相手だ。私は声にならない悲鳴を上げて寮から逃げ出した。
 セツダンジャーが男子の侵入を許すことはほぼ無いが、かつて公一は私たちの部屋に入った。影の薄さこそあれ、公一の忍者としてのスキルが意外と高いことを再認識させられる。あの時公一はどんな隠れ方をしてたっけな?

 寮の敷地内には池があった。鯉が住んでいて、楓がよく餌をあげている。
 そういえば公一は、水槽の中に潜って難を逃れたんだっけ。この池の中に入れば追跡を振り切れるかもしれない。

 ドボン!

「池に逃げたぞぉおぉおお!!!!」
「出てこいヤァあああ!! 神聖なる女子寮入れると思ってんじゃねーぞ!」
「あたしたちから逃れられると思うなよ! ダーク銛突き!」
 セツダンジャーは銛で池の底をグサグサと突き始めた。鯉が暴れる水音。


 ……ふぅ。
 池に逃げてたら、マズかった。

 私は近くの草むらに隠れてその様子を見ていた。池に石を投げ込んで、水中に逃げたと撹乱させたのだ。
 こういうのを夜半(よわ)の嵐の術というらしい。公一から色々忍術を教えて貰っていたのが役立った。

 さて、あいつらが池に注目している間に、建物に侵入しよう。
 逃げたと見せかけ忍び込む、逃止の術だ。


 いつもは廊下や自販機のある休憩所に、談笑している女子の姿があるのだが、今日は1人も居なかった。
 男子が寮に侵入しようとしたという緊急放送が流れ、全員自室に籠って鍵を掛けたと思われる。都合がいい。

 5階の一番奥、私たちの部屋に辿り着いた。

 鍵は掛かっていなかった。
 非常事態なのに緊張感が無い。楓らしいっちゃらしい。
 でもこれも好都合だ。
 私は静かに扉を開けて、中に入った。
 楓は奥のキッチンで料理をしていた。鼻歌を歌い、お尻をフリフリしながら包丁で何か切っている。
 そういえば今日は楓が夕飯を作ると張り切っていた。いじらしいな。

 親友の楓なら、私の言葉を信じてくれるはずだ。

「楓、聞いてほしい」

 男の声に、楓はビクッと振り向いた。エプロンを付けている。
 彼女の両目がせいいっぱい見開かれた。

「驚くのもわかると思う。でも私は七海」

「いやああああああああああああ!!!!」

 楓は包丁を投げた。私は避けたが、すんでのところで刺さっていた。
「ぎゃーーー変態!! 放送で言ってた侵入者ってこいつだったのかよ! 信じらんない!!」
 まあ、そうなるわな。
「聞いてったら。私だよ、七海だよ」
「お前が七海ちゃんの名を騙るな! コボレンジャーを馬鹿にしたの、許さないから!!」
 楓は座椅子を振り上げた。
「あぶなっ」
「このォ!」
 大ぶりの座椅子こそかわせたが、直後楓のブローが、私の左頬に直撃した。楓は貧弱なので余り痛くも無いが、精神的にショックだ。
「ブレイクアップ!」
 更に楓はコボレブルーに変身した。
「楓待って!!」
 楓は水の魔法を呼び起こした。カエルの水槽から濁った水が持ち上がり、渦を巻いた。
「なみつなみ!!」
 大波が私を飲み込み、窓を突き破って、屋外に排出した。劣等生の楓が、怒りに身を任せてるとはいえ、水魔法を使えていることを、祝福している場合ではない。

「恨むよ楓!!!」

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