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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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161 :げらっち
2024/06/01(土) 13:11:07
格闘クラス専用体育館の特長は、なんといっても土俵があることだろう。
国技館のようなこの場所は、格闘系戦隊のぶつかり稽古に使われる。
日曜から始まる1週間、一日一番、相撲を取る。
今日がその日曜だ。私の嫌いなお日様の牛耳るこの曜日、豚ノ助とドスコイジャーの初顔合わせが行われようとしていた。
西の支度部屋で、豚は最後の調整をしている。私と楓はその様子を見ていた。
豚は壁をドンドン突きながら言った。
「相撲は初日が大事ブヒ。特に、押し相撲では」
豚は半裸で、ピンク色の廻しを締めていた。ぷよぷよの贅肉が廻しの上に乗っかっている様はしまりが無い。
「押し相撲って何?」楓が尋ねる。
「相撲の型は大きく分けて2つ。押し相撲と四つ相撲があるブヒ。つまり四つ相撲っていうのは……」
豚は突然、楓のスカートのすそを引っ張って抱き込んだ。
「きゃあ!」
「廻しを掴んで組み合うのが四つブヒね」
「わ、わ、包容力やっば!」
裸のデブに抱き締められて、楓は何故か顔を赤くしていた。
四つというのは2人の力士が4つの腕で組み合うという意味らしい。
「組まずに相手を突き押しのみで攻めるのが押し相撲。僕はこのスタイルブヒ」
「単純な豚にはぴったりのスタイルだな」
私がそう言うと、豚は照れ笑いしていた。皮肉のつもりだったんだけどな。
私は壁に寄っかかって、対戦相手表をチェックした。
初日 ジョニダンオレンジ・大橙
二日目 ジュウリョウイエロー・魁黄
三日目 マクジリベージュ・肌毛海
四日目 ヒラマクグリーン・江戸緑
五日目 ヒットウブルー・青竜丸
六日目 オオゼキブラック・黒ノ不死
千秋楽 ヨコヅナレッド・赤鵬
豚は1人で、この7人を日替わりで相手にするのだ。
最初は序二段を当ててくるとは、様子見のつもりだろうか。それとも舐められているのか。
そろそろ時間だ。豚は私に背中を向けた。
「気合を入れてほしいブヒ」
「オッケー任せて」
押し相撲は、初日勝てば、勢いが付いて白星が伸びると言われている。
ここは勝ってもらわねば。
私は「コボレ!」と声を出し、豚の背中に手のひらをぶつけた。広い背の真ん中に、小さな手形が付いた。
豚は花道をドスドス歩き、土俵へ向かった。
「七海ちゃん、弁当持って観戦席!」
私と楓は通路を走り、客席に向かった。
日曜だというのに客はほとんどおらず、暇潰しに来たと思われる数人の生徒がぽつ、ぽつ座って居るのみ。がらんとしたアリーナは、さながら序ノ口の土俵の様であった。
私たちは西側の升席の座布団に座った。東側の升席にはドスコイジャーたちの姿もあった。そして赤房下には、赤鵬が胡坐をかいていた。どうやら1人で審判を務めているらしい。
「東ィ~、ジョニダンオレンジ。西ィ~、コボレピンク」
呼び出しを受け、豚は土俵に上がる。
対戦相手の大橙はドスコイジャーの中では小柄であり、豚より一回り小さい痩せ型の力士だ。オレンジ色の廻しを締めている。
塵手水を済ませた両者は、「ブレイクアップ」と唱えた。2人とも変身した上に廻しが巻かれている状態となった。戦隊の相撲は特殊で、変身した状態で戦うのだ。
オレンジとピンクの戦士が向かい合い、四股を踏む。
行司が「時間です! 待った無し!」と時間一杯を告げた。
元々静寂だったガラガラの館内が、更に無音に包まれた。
私は静かに両手を握り締めた。相手は小兵、落ち着いて取れば勝てるはずだ。
豚は身を屈め、立ち合いの姿勢を取る。立ち合いは呼吸だ。力士は動きを合わせ、視線を合わせ、呼吸を合わせ、同時に立つのだ。
仕切り線に手をつき、次の瞬間、
豚は全力で、真っ直ぐぶつかっていった。
「残った残った!」
「ブヒ!?」
1秒後、豚はバランスを崩し、顔面から土俵に突っ込んだ。
大橙は立ち合いで右にずれ、「変化」でこの一番を制した。
反対側の升席で見ていたドスコイジャーたちから笑いが起きた。挑発的な注文相撲であった。
私は座布団をぶん殴った。
「卑怯!!!」
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