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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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167 :げらっち
2024/06/01(土) 13:13:21
一勝三敗、気分の沈む豚ノ助。後の無い状態で迎えた五日目。相手は中くらいの大きさながら、闘気溢れる青竜丸。
今日こそコボレンジャーの敗北を見届けようと、昨日以上の客が詰め寄せ、札止めとなった。
客たちは豚が土俵に上がるなり「青竜丸! 青竜丸!」とコールを贈った。私にはそれが「豚ノ助負けろ」と聞こえた。客たちのその行為は、気に入らない者を大勢で無視する、いじめ者の姿そのものであった。
私と楓は砂かぶり席から土俵を見上げていた。豚の所作からは緊張が見えている。
楓は「豚ノ助ー! 肩の力抜いてー!」と叫んだが、大音声の相手のコールに掻き消された。
「大一番だというのに、さっちゃんと公一は?」
コボレの五角形、うち二辺が欠けている。
「佐奈は……うん、豚とは犬猿の仲、というか猫豚(びょうとん)の仲だから。公一は……」
私に隠し事をしている公一。
「知らない。あんな奴」
「あれ? 夫婦喧嘩中?」
「知らない」
「寂しいな。なんか、バラバラだよね……」
楓は溜息を漏らした。
時間一杯となり、館内は爆発的な歓声に包まれる。
「待った無し!」
行事のその声で、歓声はぴたっと止み、物音ひとつなくなった。それでも熱気だけは変わらず館内に充満し、土俵を包み込んでいた。
豚は先にしゃがみ込み、仕切り線に両手をついて相手を待った。
私は土俵の、2人の力士の中間点を見つめていた。その点にこの空間の全神経が集中しているかのようだった。私はつい呼吸を止めていた。
余りの静寂に、青竜丸の囁きが土俵下の私にも聞こえた。
「コボレンジャーも今日でお終いだな」
「ブヒ!!」
その挑発に、豚は思い切りぶつかった。かち上げで相手の上体を起こそうとする。青竜丸は右に変化しそれをかわした。再三の変化に会場はどよめく。だが豚は何度も同じ手を喰うような力士ではない。体勢を立て直し、逆に相手を土俵際に押し込んだ。青竜丸の両かかとが俵にぶつかる。相手が墓穴を掘った、勝てる。そう上手くはいかなかった。青竜丸は左手をパッと開いた。何か白い飛沫のような物が舞うのが見えた。塩だ。青竜丸は仕切りの際に塩の塊を手の中に隠していたのだ。視界を潰され、豚の攻勢が崩れる。
ゴン!!
青竜丸は右手で豚の顔を張った。
張り手、いや、そんな生易しいものではない。グーパンチに匹敵するようなグレーな打撃。左、右、左の殴打。鈍い音のフルコンボ。私なら一発喰っただけで脳震盪を起こすような攻撃を、何度も何度も受ける豚。もはやボクシングだ。館内は歓声と悲鳴に包まれた。
「もうやめて! ギブアップしてよ豚!!」
楓は涙目で叫んでいる。
豚は膝を突くことはせず、ただその痛みと侮辱に耐えていた。
「しぶとい豚野郎だ、奈落に落ちろやぁ!!」
青竜丸は低く潜り込み、豚のピンクの廻しを取った。このままでは料理され放題だ。
だが豚はこの時を待っていたようだ。力強く上手を取った。押し相撲の豚に、廻しを取るテクがあったとは。
これには客たちも驚いたか、土俵の真ん中で組み合う二者に対し、大きな拍手が送られた。互いに体力の消耗を待つ拮抗状態。馬力だけなら豚も負けてない。水入りに持ち込めば勝てるか。私は両手を握り締め、唇を噛み、気合を注ぎ込むつもりで喰い入るように豚を見つめた。
だが先に動いたのは、やはり巧者である青竜丸だった。
青竜丸は右足を豚の左足に掛け、器用な足技にてバランスを崩した。
「ブげ!!」
豚の巨体は、土俵の真ん中に、倒れていった。
「豚ノ助!!」
つづく
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