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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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17 :げらっち
2024/05/04(土) 14:00:02

 こぢんまりとした部屋だった。
 あまり広くはないが寝室とダイニングキッチンがあり、生活用具は一式そろえられており、テレビに冷蔵庫、トイレにシャワーも付いている。
 楓が荷物を広げてしまっていたため、室内は既にごちゃごちゃと散らかっていた。
 私はクローゼットやストレージを1つ1つ開けて中を点検した。どこも楓の私物が放り込まれていた。早業の散らかしだ。
 私は廊下にぶちまけられた自分の荷物を室内に運び込んだ。楓も手伝ってくれた。

 楓は自分が投げた本を拾い上げた。
「カッとなって投げちゃったけど、大事な動物図鑑にしわが付いちゃったよ……」
「大丈夫? ごめんね」
 ごめんね、初めて言ってからはスムーズに出るようになった。自分の負けを認めているようで喰わず嫌いしていたが意外と良い語感。
「こっちこそごめんね! 痛くなかった?!」
 私は額をさする。まだちょっと痛む。のみならず、コーラを買ってきたことでぶん殴られたみぞおちも少し痛んだ。初日から満身創痍の助だ。誰だそれ。
「初めて友達ができた記念としてこの痛みを覚えておくよ」
「へえ! 初めてなんだ! あたしが1番目の友達?」
 楓はふへっと笑った。何がおかしい。


 寝室の壁際に、大きな2段ベッドがある。
「七海ちゃんどっちがいい?」
「どっちでも」
「じゃああたし下ね。昔ベッドから落ちたいや~な思い出あるから!」
「OK」
 私は梯子を登り、ベッドに上がってみた。まっさらなリネンが敷かれている。
 寝そべって天井を見る。ふぅっと大きく息を吐くと、疲れと安堵がドッと出た。初日から色々なことがあった。心が折れそうになる瞬間もあったが、結局はこうして、初めての友達に巡り会えた。嬉しいな。
「ねえ楓」
「なにー?」
 真下から返事があった。まだ夕方だが、楓も下の段で寝そべっているようだ。
「ユニット組むメンバーってもう決めてる?」
 まだー、と返され、じゃあ一緒に組まない? と言うのが今後の流れの予想だ。すぐに返答があった。
「決めてるよ」

 ドキッ。

 驚きはすぐ諦念に代わった。それもそうだ。楓は明るくてとっつきやすい。こんな私にさえも気さくに話しかけてくれたくらいだ。すぐに友達を作り、集団を組めるだろう。しかも私は一度彼女を拒絶した。離れている間に他の子と懇意になったことも十分に考えられる。
 まあ、私と組まないほうが楓のためだ。私は黙りこくると。

「あたしは七海ちゃんと組むって、決めてるよ!」

「え」

 予想外の答えに、私の心がふいに温かくなった。
「ありがと」
 そして涙が出た。弱いな私。ベッドの上下に居るので、醜い泣き顔を見られずに済んだのは良かった。北風と太陽、どんなにいじめられるよりも、優しさに触れた時、心が動く。私は咄嗟に枕に顔を埋めて涙を拭いた。
 泣いているとバレないように話し続けるのに苦慮した。
「でも、2人じゃちょっと少ないよね」
「だねぇー。戦隊って大抵3人以上だし、5人は集めたいよね!」
「いや、5人じゃない」
「え?」

「7人」

「……は??」

 下段から楓の「は?」の連呼が聞こえる。
「は? 7人って多くね? 普通の戦隊そんなに多くないよ? てかあと5人も集められる? は? は? どうやって?」

「私の目を使って、カラフルな5人を見つけてみせる。七色の、虹を作るんだ」

 私は白い天井に虹を思い描いた。

 虹。
 私は一度も見たことが無いけれど。
 青い空に七色の橋が掛かっている様は、さぞかし美しいのでしょうね。
 地球の昼を丹念に照らす陽光や、夜に静けさと興奮を降らせる月明かりとも違う、虹の灯りは、汚損した私の心を、美しく塗ってくれるのでしょうね。

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