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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗171

171 :げらっち
2024/06/01(土) 13:26:05

 夜11時。
 良い子のみんなはもう寝たかな? うちにとってはゴールデンタイム。


《佐奈》


 うちは扉の隙間から、脱衣場を覗き込んだ。
「だぁれもいない」
 七海さんの言った通りだ。

 七海さんの尖っている所は好きだ。
 でも最近、丸くなりすぎている。あの豚に感化されたのかもしれない。うちのロボにいちゃもんを付けて、許さない。
 だから、七海さんの勧めに素直に乗るのは嫌だった。最初は絶対行くもんかと思った。
 でも、純粋に気になったから、ガクセイサーバーで調べてみた。すると綺麗なお風呂の写真があって、来てみたくなった。

 ここ大浴場に。

 替えのパジャマと洗面用具を手に、中に入る。
「来るのはじめて~」
 少しワクワクしてしまう自分が居た。
 脱衣場は熱気が凄いけど、首を振っている扇風機のおかげで涼しくもある。
 サーバーで調べても、この空気は実際に肌で感じねば味わえない。いつも来ない空間に来るのは、それだけで刺激になる。

 気分転換になるし、ロボ制作のインスピレーションが湧くかもしれない。
 たまにはお風呂でのんびりというのも悪くないかも……

「本当に誰も居ないよね?」
 裸など誰にも絶対に見られたくない。
 うちは室内を回って、人が居ないことを入念に確認した。大きな棚に多数のカゴが置かれているが、使用中の物は無いようだ。大丈夫。
 5日間着たパジャマを脱いで、下段のカゴにぽいと入れた。
 誰も居ないと思いつつ、念のためタオルを巻いて裸体を隠そう。広いお風呂に入る時はこのほうが落ち着く。

 さあ、入ろう~。

 ふと体重計が目に止まった。妙に存在を主張しているではないか。
 まさか、乗ってほしいのかっ?
 そんなにせがまれちゃしょうがないな。特別だぞ。
 片方ずつ、足を乗せてみる。アナログ式のもので、目盛りがカタカタ進む。赤い針は、予想を遥かに超えた数字を示した。

「待って、嘘、やばぁ、5キロも増えてんじゃん。身長は伸びないのに……くそ」

 七海さんがジャンキーな物ばかり買ってくるから悪いんだ。まあ頼んでるのうちだけど。
 親切に乗ってあげなきゃよかった。悪態をその場に残し、浴室の扉を開ける。
「きゃあ!」
 眼鏡が真っ白に曇った。
「あふ……取るの忘れてた……」
 眼鏡を取って手に持ち、改めて浴室に入る。

 お湯の匂い。裸足で濡れたタイルを踏みつける。
 小さい頃に両親に連れられて行った温泉旅行を思い出した。

 まあ、今も「小さい」んだけど……
 それは、背の話。もうじき16になるッてのに143センチ。小5から、伸びてないのだ。
 この2044年、平均身長が底上げされて、男子は約180、女子は約162だ。うちは中学では3年間背の順で一番前だったし、チビって言われまくっていい思い出が無い。七海さんみたいに背高くなりたい……
 両親はうちのことを、ずっと小さい子供扱いする。中身は成長してるのに。
 だから自立するために親元を離れ、強くなるために、遠い戦隊学園に入った。
 今はあの人たちのことを思い出すのは、よそう……

 うちは取り敢えず浴用椅子に座り、眼鏡を鏡の前に置くと、シャワーを浴び、5日分の汚れを落とすことにした。
 シャンプーとマリーゴールドのリンスで、長い髪の大掃除。

「ン?」
 ぴくり。
 奥の方から、ざばぁ、手桶でお湯を被るような音が聞こえた。

 誰も居ない、はずだよね……?

 うちは硬直した。
 誰だろう。誰でも最悪だ。同級生でも先輩でも先生でも同様だ。恐らく誰であれ、うちのことをチビ呼ばわりする。声に出して呼ばなくとも、心で呼んだら、それはチビ呼ばわりだ。
 怖い。もうやだ。帰ろう。
 でも、気のせいかもしれない。取り敢えずは誰か居るのか、見極めよう……

 うちはシャワーを止め、タオルを体にきつく巻き付けて、恐る恐る奥へと進んだ。

 またぴくり。

 人が、居た。
 髪の長い女子だった。
 かなり太っていて、広い背中をこちらに見せている。浴用椅子がでかい尻の下で押し潰されそうになっている。

 誰か居たことだけでも最悪なのに、見覚えのあるシルエットが、うちの動悸を激しくした。

 ぴくりぴくり。

 まさか……まさか……

 持っていた眼鏡をオペラグラスのように覗き込む。
 そのシルエットが振り向いた。

 女子ではなかった。

「ブヒ?」

 豚だった。

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