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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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182 :げらっち
2024/06/06(木) 17:15:11
私の目は凶華に釘付けになっていた。
凶華は教室に座る生徒たちの匂いを、次々と嗅いでいたのだ。
そのたび「赤松みたいに香り高いな!」とか「黒酢みたいに酸っぱいや!」とか「うっへ、ブルーチーズの匂い! お前腐女子だな!?」とか「金木犀の香りか。でもオイラの好みじゃないや!」とか言ったりした。
なんでみんなされるがままなんだろう?
一般的な女子なら、初対面の男子に鼻をこすり付けられたらヤだろうし、男子同士でもヤだと思うけど……
「あ、あれうぇっ? 動けない!」
楓が隣で変な声を出した。
彼女の方を見ようとすると、首が動かない。目玉だけを全力で左にスワイプさせると、楓は動けないでいるようだった。
というか自分も動けない。
ま、まさか。
「だるまさんがころんだ☆」の効果は、教室に居る全員に掛かっていたのか?
それほど魔術というものは、強力なのか??
魔術といえば、ブラックアローンも使っていた。
ブラックアローン。カラフルな花畑の中にある、一輪の黒薔薇。
そんな彼と同じく魔術を使うとは。星十字凶華、何者なのだろう。
凶華は1001人の生徒全てを順に嗅いだので、随分と時間がかかった。
私は自分の番がくるのを待っていたが、次第に、不安になってきた。
私はどんな匂いがするんだろう?
毎日シャワーを浴びているし、変な匂いはしないと思うが……
でも彼が嗅いでいるのは、そういう、「嗅覚」としての匂いではないみたいだ。どちらかというと、私の感じる「イロ」のような……
ついに、教室の後ろに座っている私たちの番になった。
私は眼輪筋が痛くなるまで目玉を最大限に左に寄せた。
凶華はまず楓に近寄り、彼女の黒髪をスンスン嗅いだ。何だかやらしいな。楓だったら喜ぶかもしれないが。どのみち動けないのでリアクションがわからない。
「……海の匂い! 澄んでいるけど、とっても深くて、底の方まではわからないや」
あ、私のイロの解釈と同じだ。
「気になるなら底の方まで調べてもいいよ……」と楓。メンクイの楓はやはり凶華が気に入ったようだ。
「いや、やめとく!!」
「ええっ!?」
とうとう、私だ。
凶華は私の目の前に移動し、座っている私の顔に高さを合わせた。濁りの無い目、口からはみ出した、対の犬歯。にっこり笑っている彼の顔は、有邪気ないつみ先生とは違い、正に無邪気だった。
彼は私のおでこあたりに鼻を付けた。
横から「何すんねんこの色情魔!!」と公一の声。でも魔術は破れないようで、声を出す以外には何もできていない。
凶華は息を吸って、吐いた。熱い息が髪にかかった。
クサイって言われたら、傷つく……
コボレのみんなの前でそう言われたら、恥ずかしさのあまり明日から保健室登校に切り替えるかもしれない。
ていうか、なんか、他の人の時より長く嗅いでない?
やっと、吟味が終わった。
凶華は、顔を離した。彼は真顔だった。まるで何を考えているのかわからなかった。
そして。
「無臭」
と言った。
「え?」
「どんなに嗅いでも匂いがしないや。次行ってみよー!」
「ま、待って!!」
私は叫んだ。
凶華は、待った。
でもそれ以上何を訴えればいいかわからなかった。
私は、無臭?
それは、ある意味で、クサイより傷付く言葉だ。
私は、白い。私は、無色。だから、匂いも無い……
「そろそろいいかなぁ?」
いつみ先生が椅子から立ち上がる、ギシッという音がした。先生が闊歩してきた。
「あっれえ。先生、何で動けるんすか?」と凶華。
先生の魔法で魔術を破ったのか?
「そりゃ、きみは教壇から生徒たちに向かって術を掛けたからね。きみの視野に入っていなかった僕が術の対象外になるのは当然のことじゃないかい? まあ、今まで動けないふりをしてこの様子を見ていたんだけどね♪」
さすが、先生の方が上手だ。
「もうそろそろ1限目の開始時刻なんだけど、元に戻してくれないかな?」
「仕方ないなー」
凶華は言った。
「1抜けピ!」
すると、ガク、と体が真下に落ちる感覚がして、身体の支配権が戻った。長い間同じ体勢を取っていたために、あちこちがピリピリと痺れたり無感覚になったりしていた。周りを見渡すと、全員動けており、天堂茂は起き上がっていた。
「凶華、僕はどんな匂いだい?」
いつみ先生は両腕を広げ、凶華を誘った。
2人はしばし目線を交わしていたが、やがて、凶華は言った。
「やめておきます。先生の匂いを嗅ぐなんて、滅相も無い」
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