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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗2-12

2 :げらっち
2024/04/11(木) 14:36:10

第1話 青春のポータル


 戦隊学園へようこそ!

 私はアカリンジャー・落合輪蔵(おちあいりんぞう)。戦隊の祖と呼ばれたゴリンジャーのレッドで、本学園の校長です。
 ちょうど16年前の今日、2028年4月1日、通称《赤の日》。世界の半分が赤く塗られ、人類の半分が亡くなりました。
 皆さんの中にも、ご家族が赤の日に命を落としたという方も居るかもしれません。
 まず初めに、1分間の黙祷を捧げたいと思います。ご起立ください。


 黙祷。


 ご着席ください。


 赤の日に秩序は崩御し、法律は機能しなくなり、世界は明確に塗り分けられました。《正義》と《悪》に。
 悪、それは力によって世界を手に入れようとする者です。無法の此の世、怪人が蔓延り、悪の組織が世界征服を目論んでいます。
 正義、それは悪に立ち向かうヒーローです。
 1人きりで戦う者だけがヒーローではありません。
 1人1人の力は小さくとも、チームを組み力を合わせれば、1人では到底なしえぬことも実現できます。チームワークで戦うのが《戦隊》です。

 戦隊候補生育成のために、私はこの学園を創設しました。

 本学園は創立23周年を迎えました。歴史はまだ長くはありませんが、本学園が輩出した戦隊たちは、世界平和のために実際に戦い続けています。
 皆さんは、2044年度の新入生です。
 1001名の新入生の皆さん、未来の平和は皆さんの肩にかかっています。これからの3年間で皆さんは、志を共にする掛け替えの無いチームと出会うでしょう。

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3 :げらっち
2024/04/30(火) 21:54:21

 校長先生の祝辞が終わった。年老いた校長は、バストアップの映像のみのご登場で、本人がこのホールに現れることは無かった。
 わざわざ出向く必要も無いってか。権力者って大嫌い。

『次は新入生代表挨拶です』

 私は壇上への階段を上がる。コツ、コツ、1段登るにつれ視点が高くなり、視野が広がり、ホール全体が見渡せた。
 新入生たちはパイプ椅子に肩を並べて座り、期待、緊張、そしてちょっぴり浮かれた顔をしていたが、私の姿を見るなり全ての目線が釘付けになった。
 マイクの前に立ち、ホールを見渡す。新入生に在校生、教職員、2000を超える人々がぎっしり詰まっていたが、その全員が私を見上げていた。

 それも、奇異の目で。

 怖がる者、不思議がる者、見下して笑う者、十人十色で全部嫌だが、逃げていても始まれない、変われない。今日ここに立って私は新たな私になるんだ。
 むしろ私のほうが、館内の生徒たちを観察した。十人十色、それは比喩ではない。
 あの子は赤、あの子は青、あの子は黄色。

 私には《イロ》が見えるんだ。

 人は皆イロを持っている。それは表面上の色ではない、内在するイロだ。1人1色、持っている。同じイロなんて1つも無い。
 2000色ものカラーパレットを見ていると情報量が多くて眩暈がした。カラフル過ぎる混ぜご飯を食べてお腹いっぱいだ。
 色とりどりのお花畑は、色彩の無い私を染めてくれるだろうか?

 衆目は私がなかなか喋り出さないので、ますます不信感を募らせていった。アテレコすると、「早く喋れ」。まあそう焦りなさんな。たっぷり注目が集まったところで、私はゴホンと1つ咳払いをしたのち。

「こん! 聞こえますかー!!」

 元気いっぱいにそう叫んだので放送機器がキーンとすごい音を出した。

「はい。見ての通りのアルビノです」

 私は全身真っ白だ。

 髪も肌も雪のように真っ白。いや、雪でさえ踏みしめられて色が付く。だのに、私は白紙のまっさら何も無し。
 日本人のデフォルトは、肌は肌色、髪は黒。周りに合わせるのが大好きなこの狭い島国の住人は、デフォルトから外れたものをとかく忌み嫌うが、こう生まれてしまったからには迫害されようがそう生きるしかない。それが障害というものだ。
 真っ白い手をひらひらと振ってみる。紙粘土で作ったみたいに無機質な白に、血管が薄く浮いて見える。オーディエンスはざわめいて、小さく悲鳴を上げる者も居た。慣れているとはいえ傷付く。それでも新しい自分になるため逃げない。むしろ喧嘩は勝ってやる。私は下界の者共を睨み付けてやった。

「チームワークで戦うのが戦隊です、校長はそう言ってましたね。綺麗事って、大嫌い。でも興味あるな。単なる綺麗事か、それとも本当に綺麗なビジョンがあるのか。カラフルな戦隊は、私の憧れです。私は色とりどりになりたいんです。私の話は以上です」

 私はチョットだけ頭を下げる。
 拍手が起こらない。あれ、スベったかな。

「新入生代表、小豆沢七海(あずさわななみ)」

 出席番号1番はいつもこういう役回りだ。

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4 :げらっち
2024/05/01(水) 12:45:21

 ホールを出て一列になって校舎へ。
 1001名もの新入生が1つの教室に収容される。私の席は廊下から入ってすぐ、上手側の一番前だった。私の苗字は「あ」、遅刻判定では最も不利になる出席番号1番。
 新年度に新調されたのか、ピカピカ綺麗な木の机。硬い椅子は初めて座られて緊張しているのか、少し座り心地が悪い。頬杖を突いて教室に入ってくる同級生たちの姿を見る。皆私のことを怪訝な目で見ていた。
 まだ先生の姿は無い。生徒たちは各自の席に着いて、落ち着きなく動いたり、初めて出会う級友と挨拶しているようだ。お互いの距離感を図る固い空気の中、私の背中に多数の視線が注がれているのを感じた。見た目も見た目だし、あんな尖った挨拶をすればそりゃ目立つだろう。隠すことができない以上、少し目立っているくらいのほうがいい。でないと何も変わらない。

 後ろから肩を叩かれた。

 突然のことに必要以上にびくついて肩を跳ねさせてしまい、瞬発的に振り返った。人に触れられるのは大の苦手だ。
 だが背後に居たのは邪気の無さそうな顔だった。後ろの机から身を乗り出して片手を上げていた。

「こん!」

 くりくりしたブラックタイガーアイのような目で見つめてくるのは、少々エラの張ったベース型の輪郭に、ショートカットの黒髪を茶色いカチューシャでまとめている、小柄な女子。
 Yシャツの上に、学園の制服である紺のブレザーを着ている。ネクタイは、締めてない。まだ支給されてないのだ。私もおんなじ格好だ。ただ、肌の色が違った。彼女は肌色。

「あたし伊良部楓(いらぶかえで)! 番号1番違い! よろ!」

「はじめまして。私は……」
 私が自己紹介をお返ししようとすると、先方は手を振ってそれを遮る。
「待って、わかるよ! あてるよ小豆沢七海!」
「あたり」
「すっごく目立ってたからねぇー! あ、変な意味でじゃないよ!!」
 彼女は急に手を伸ばしてきたので私は身構えた。彼女は私の、胸に届くほどの白い髪を、掬い上げた。
「うわー、本当に真っ白、きれいだねぇ」
 配慮の無い彼女の言葉は既に2個の地雷を踏んだ。初対面で触ってくるとはこの女は距離感がおかしいのか。私は机と椅子を前にずらして避けた。後ろを向いているのも疲れてきた。
 彼女は目をキラキラさせて、首を傾げて私を見ている。珍しい物を見る目だ。
「それ何て言うんだっけ?」
「アルビノです」

 アルビノとは、色素欠乏症のことだ。御覧の通り頭のてっぺんから爪先まで色が無い。創造主は私の下書きだけして色塗り作業を忘れたようだ。

「あるびのー。どこかで聞いたことあるんだよね……」
 彼女は動物図鑑を開いて調べ始めた。携帯してるのか?
「あっ! ウーパールーパーとか、ジャパニーズホワイトとか、高級ペットとおんなじなんだ! すご!!」

 私はその言い方に違和感を覚えた。

「私は、ペットじゃないよ」

 彼女の顔が曇る。
「あ、ごめん! そういうイミじゃなくて……単に白いのがかわいかったから……」
 彼女は両手を振って必死に弁解していた。無配慮だが悪意が無いのも伝わった。取り敢えず矛を下ろすか。

「私、気になったことはすぐ口に出すタイプだから。覚えておいてね」

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5 :げらっち
2024/05/01(水) 12:45:40

 すると彼女は、私の目を覗き込んできた。

「……きれいだね!」

 アルビノは色素が少ないため、虹彩、つまり日本人で言う黒眼の部分が、灰色や青になる。
 私の場合は透き通った青だ。彼女は私の青眼が、外国人みたいで綺麗だと、そう思っているのだろう。
 見つめられるのは好きじゃない。目を逸らしかけた。でも踏み止まった。私はこの学園に入学して、新しい私になるんだ。さなぎを突き破り綺麗な蝶になるんだ。綺麗じゃなくても、汚い蛾でも良い。色のある私になるんだ。
 手を付けていない塗り絵の、真っ白な1ページ目に、色を付けたいんだ。これからカラフルにするんだ。

 だから私は、彼女のつぶらな瞳を、逆に見つめ返した。

「あなたのほうが、きれいだよ」

「えぇ!?」
 彼女はちょっとたじろいだ。

「あなたは青。透き通ってて、だけどすっごく濃い。海のイロ」

 私は彼女の眼の色ではなく、心のイロを見透かした。

 彼女の顔が引きつった。
 この表情は、恐怖だ。私はしょっちゅうこのような顔を向けられてきた。私はこの見た目だけでなく、人のイロを見る力も、特異であると忌み嫌われてきた。あなたもその1人か。
 残念だったね伊良部さん。あなたも私の、1番目の友達には、なれないみたいだ。
 私は前に向き直ろうとした。
 だが彼女はにやっと笑った。
「あたしのオーラが、見えんの?」
 へえ……この女は私の容姿と能力、2つともに「拒絶」や「恐怖」ではなく「興味」を示した。珍しいな。
 そろそろ首をねじっているのも限界だったため、私は椅子を反転させ、伊良部楓と体を向き合わせた。
「オーラとはちょっと違う。一般的には共感覚って言うらしいんだけど、その派生かな。型に嵌めるつもりもないのだけど」
「きょ、きょうかんさつ?」
「キョウカンカクね」

 共感覚、それは1つの感覚から他の感覚を得る能力だ。世界には一定数の共感覚保持者が居て、例えば文字に色が見えたり、美しい音色からイイ匂いを感じ取る人も居るらしい。
 私は色を持たない分、他人のイロを見ることができる。こんな能力を与えた神は、アイロニーというものがお好きらしい。偶然にも、私も好きだ。

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6 :げらっち
2024/05/01(水) 13:04:44

 先生はなかなか来ない。

 伊良部楓はおしゃべり好きで、こんな私に対しても壁を作らず気さくに話してくれた。その点は好感が持てたのだが。
「七海ちゃんはさ、どこシティ出身?」
 断りも無く突然ちゃん付きで呼んできたのでブッと吹いてしまった。まだ友達でもないのに。やはり距離感を図る定規の目盛りがおかしいようだ。
「……そういう情報は自分から開示したら? 伊良部さん」
 次は先方がブッと吹いた。
「よそよそしい呼び方しないでよ! 先生か! 変な苗字だからさぁ嫌いなんだよね……楓って呼んでよ! 良い名前でしょ!」
 他人の事を下の名前で呼ぶのは慣れない。
 私はちょっと躊躇いつつも「じゃあ、楓」と言った。
「あたしはねえシティ11(イレブン)!」

 すると背後からバンッという攻撃音が聞こえた。咄嗟に振り返る。私の机に手を突いてニヤニヤと笑う、眼鏡を掛けた小狡そうな男子。
 明らかにこちらを、というか私を見下しきった態度だ。楓は「何だよ!」と言ったが、男子はそれを無視し質問を投げかけてきた。

「戦隊の祖と呼ばれているのは何だったか?」

 授業でもするつもりか?
 私の志望理由は「色とりどりな戦隊に憧れたこと」であって、戦隊についての勉強はしてこなかった。世界はヒーローを必要としているため、無学でも入学自体は可能だ。
 私が口を真一文字に結んでだんまりを決め込んでいると、男子は机をバシバシ叩いて笑った。
「おやおや、戦隊の基本のき伊呂波の伊もご存じないのか、傑作だな!!」
「知らない。ここで何を学ぶかが問題で、ここまでの知識は然程問題じゃないと思うんだけど」
「ほう、そう思うか。答えは校長のスピーチで既に明示されていたのだがな。あのような不真面目な態度で式に臨むからこの時点で知識の差が開くのだ。戦隊学園は学校生活自体が鍛錬だ。既にレースは始まっているのだよ。生き残るのはどちらかな?」
 男子は私の机に乗りかかり、眼鏡の奥の三角形のイヤラシイ目で私を見下してきた。

「小豆沢七海と言ったな。お前の10円の価値も無いようなスピーチを聞いたぞ。今日は大事な任務で来られなかったが、僕の父が来賓として見えていたら、その場で卒倒していたかも知れないな。この僕を差し置いて、出席番号1番というだけで、お前のような障害者が新入生の代表とは。嗚呼、喀痰が出そうだ」

 随分と私に対し攻撃的だが、攻撃は恐怖心による物であり、恐怖心は無知によるものだ。
 わかったのは、こいつは知識をひけらかしているだけの、取るに足らない馬鹿だってことだ。

「出したいなら出せば? あのへんに痰壺あるかもよ?」
 私は教室の隅を見やった。もちろんそんな古風な物は、現代の教室には配備されていない。
 すると私の後ろで楓が怒鳴った。
「障害者なんて呼ばないでよ!!」
 だが私は毅然と言う。
「別にいいよ。障害者だもん。好きに呼んでよ健常者」
「皆裏でそう呼んでるさ。あのスピーチは最悪だったからな。今年の新入生全体が悪い目で見られかねん」
「あっそう。それで、私のスピーチの感想を言うためだけにわざわざ来てくれたの?」

 男子はやれやれと首を振ると、自分のこめかみを指で突いた。腐った脳みそがフン詰まっていそうだ。
「覚えておけ! 僕は学年一のエリートだ。お前のような厚顔無恥な障害女はすぐに脱落するだろうが、退学するまではよろしくな」

 男子は手を差し出した。
 嫌な奴だが、挨拶する気はあるのか? 私は手を取ろうとするが、私の指が触れるか触れないかで。

「おっといけない触れてしまった、白いのがうつる」

 奴は、サッと手を引っ込めた。
 そして卑しく笑いながら、後ろのほうにある自身の席に向かって行った。

「なにあいつ!! うっざ!」
 楓は奴の背中に向けて中指を立てていた。

「気にしないでいいよ」
 あんな奴気にするまでもない。
 ……そう自分に言い聞かせても、やはり嫌な気分にはなる。この先色々な苦節があるかもしれないな。乗り越えていかなくちゃ。

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7 :げらっち
2024/05/01(水) 13:06:38

「そろそろ先生が来るみたいだぞ! 席に着け!」
 生徒の誰かがそう言った。だが言われるまでも無く、その接近には気付いていた。
 私の席からは廊下が見えるが、廊下の向こうから、まばゆい光が向かってくるのだ。パチパチ爆ぜる、炎のような赤いイロ。

 何だ。

 何が近付いているんだ。


 入室した人物は、本当に赤かった。
 イロだけでない、見た目も真っ赤っ赤。
 おそらくは男性だ。だが背はあまり高くない。赤いポンチョに身をくるみ、フードの下は、燃えるような赤毛に包まれた小顔。その目は赤く爛々と輝いて見える。
 炎のような、光りのようなイロの持ち主。こんな激しいイロを見るのは初めてで、私は目を細めた。入学式の時は居なかった。居たら気付いたろう。
 本物の炎ではないのに、熱気までもが感じられた。私の頬を、一筋の汗が垂れた。暑くもない教室で1人発汗しているのは不自然だっただろうか。

 赤い男は教壇に立ち、室内を見回すと、口を開いた。

「戦隊学園へようこそ! あ、校長も同じことを言ったねえ、失敬失敬。これから新入生オリエンテーションを行う。僕はこの学年の主任を担当する、赤坂いつみだ。よろしくね♪」

 先生の声は少年のようだった。少しふざけた態度に、緊張していた生徒たちは肩透かしを喰ったのか、黙り込んでしまった。私も例外では無い。

「……お返事は?」

 生徒たちは慌てて「よろしくお願いします!」「よろです!!」「よろぴく!」などと返した。私も遅れて「お願いします」と言い、つい頭を下げてしまった。
「うふふ。いい子たちだ」
 先生は教室全体を見渡し、目を細めてにっこり笑い、うんうんと頷いた。その間(ま)を楽しんでいるようだった。
「身構えなくても良いよん。きみたちは大事な新入生だ。これからの学園生活次第では、何にでもなれるんだ」

 横槍を入れる者があった。

「先生、よろしくお願い致します!!」

 1001人がひしめく巨大な教室の後ろのほうで、男子生徒が立ち上がり発言した。誰かと思ったら、さっき私たちにちょっかいを出してきたあいつだ。目立ちたがり屋だな。
 室内に居る生徒2000の目が、教室の前方から後方にシフトした。注目を奪われ、赤坂先生はちょっと不貞腐れた顔をしていたが、突貫工事で笑みを作り「きみは?」と尋ねた。

「天堂茂(てんどうしげる)、名前くらいはご存じでしょう。僕の父はこの学園の理事長であり、日の丸戦隊ニッポンジャーの隊長です」

 彼がそう言った途端、教室全体がざわついた。
「えっ」
「天堂!?」
 楓も何か小声で言っている。
「まじ? やば! ニッポンジャー!?」
 私は楓に尋ねた。
「どうしたの?」
「え? 七海ちゃん知らないのあのニッポンジャーを!! 星十字軍(ほしじゅうじぐん)を倒し世界を救った護国戦隊の!! 今のヒーロー界で戦隊が台頭しているのはゴリンジャーとニッポンジャーのお陰! って言われてるくらい超有名! てかあのメガネザルのパパがニッポンジャーとかありえなくねー!!」

 別にニッポンジャーを知らないとは言ってない。有名なのだから私も知っている。
 それでもネームバリューに対し盲目的に持て囃すのは、奴の思う壷だ。天堂茂は沸き立つ教室はお立ち台とでも言うかのように、鼻の下を伸ばしていた。
 名声があるのは父親であってあんたじゃないだろう。

 天堂茂は眼鏡を押し上げ、自慢げに話す。
「先生もきっと気付くでしょう。戦隊学園は最高の生徒を手に入れたということに!!」

 奴のイロは、赤だった。
 性格は腐っているが、エリートを自負するだけあって、戦隊の華とも言える赤だ。
 でもあれは赤坂先生のような炎の赤でもなければ、花卉の紅でも、血肉の朱でもない。
 なんだろうか、作られた赤に見える。
 まあいいか。これ以上あいつを見たくない。楓の青を見て、目の保養と、クールダウンをさせてもらおう。
「……何見つめてんの? 七海ちゃん」

 すると赤坂先生は一刀両断。
「僕は1人だけ目立とうとする奴が嫌いだ。戦隊は個人競技ではないからね」

 天堂茂は押し黙って座り、うつむいている顔はみるみるうちに真っ赤に染まった。ざまみろ。

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8 :げらっち
2024/05/01(水) 13:10:05

「じゃあみんな、誰かさんの自分語りが終わったところで、もう一度僕に注目だ!」

 赤坂先生はそう言うと、気持ち良いステップを踏みながら、黒板に大きく明瞭な文字を書いた。
 1文字目は赤、2文字目は青、3文字目は黄、4文字目は緑、5文字目はピンクで。


《COLOR》


 それ自体がカラフルだった。
「読めるかな?」
 生徒たちは口々に「カラー」と答えた。コローではない。カラーだ。
「あたり♪ 戦隊にとって最も重要な物、それがカラーだ。もちろんチームワークや戦略も大事。でも、戦隊の根本はこのカラーで決まると言っていい。経験により培えるチームワーク等とは違い、カラーは生まれ持った物であり、自分で選ぶことも、変えることもできない」

 自分で選ぶことも、変えることもできない。その言葉が私の胸に針を打った。
 真っ白く生まれてしまった私は、カラフルにはなれない。そう聞こえた気がした。いや、そんなはずは無い。戦隊になって、私はカラフルになるんだ。レッドや、ブルーや、グリーンに、変身するんだ。

「では各々、机の中を見てくれ。きみたちの学生生活にとって大切な物が入っている」
 私は机の中に手を突っ込んだ。
 今まで気付かなかったが、電子端末と共に1枚のカードが入っていた。カードには戦隊学園の校章、赤・青・黄・緑・ピンクの円が描かれていた。5つの円はオリンピックの様な並びではなく、五角形の頂点となるように配置されており、それぞれ隣接する円と重なっていた。

「それは学生証ならぬ《戦隊証》だ。戦隊で最も基本となるカラーは校章の5色だが、安心していい。それ以外のカラーの子も立派な戦士になる芽があるよ♪」

「うわ! うつり悪! これ採寸の時撮ったやつ?」
 楓は自身の戦隊証を見ながらそう言っていた。

 戦隊証には、忌々しい、顔写真が貼ってあった。

 写真の中の自分と睨めっこ。
 真っ白い髪に真っ白い肌。
 人を睨んでばかりいた結果目つきは悪くなってしまった。私を睨んでくる私の瞳は赤く光っていた。これはアルビノを撮影すると目が赤く映ってしまう「赤目」という現象だ。それも相まって、写真の私はまるで化け物だ。妖怪人間だ。早くカラフルになりたい。
 自分の顔なんて見たくない。自分同士の睨めっこは仏頂面のまま目を背けてしまい痛み分け。
 写真なんて大嫌いだし、自撮りなんて反吐が出るけれど、採寸の時は写真を撮らされた。こんなカードはどこかにしまって二度と見ないようにしよう。

「戦隊証はただの紙切れではない。その名の通り戦隊の証である。肌身離さず持ち歩いて、紛失しないように、じゅうぶん気を付けてね♪」

 げっ。こんなカードを常に持ち歩かなきゃいけないとは最悪五輪の金メダル。

「もし失くせば、戦隊としてのライセンスを失うことになるから……ね。加えてそれは、変身アイテムも兼ねている」

 先生はうふふと笑った。

「じゃ、変身してみよっか!!」

「い、いきなりですか……!」と、生徒の1人が言った。
「うん、いきなりだよ。と言ってもこれは初歩の初歩の初歩を歩き出す前の、準備体操の段階だ。難しいことではない。戦隊証を使えば、誰でも変身できるし、一度変身できたら、忘れることはない。自転車に乗るようにね」

 先生は自転車のハンドルを切るジェスチャーをした。
 自転車に乗れない人も居るということを失念しているようだ。

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9 :げらっち
2024/05/01(水) 13:10:40

「説明するより試すほうが早いだろう♪」

 先生も戦隊証を手にした。教員用の物だろうか。

「簡単すぎて腰を抜かさぬように。戦隊証に向けて、《ブレイクアップ!》と唱えるだけ。さすればきみたちはそれぞれのカラーの戦士に変身する」

 室内はざわついた。
「せんせ!」
 挙手するのが早いか、発言するのが早いか、楓が質問した。
「それって、戦隊証からカラーが出て、あたしたちを包む? ってことですか?」

「違うよ」

 そう答えたのは先生ではなく私だった。
 脳の許可無く、口から言葉が無断外出してしまった。先生は天堂茂に話を遮られた時のように、怪訝な顔をした。マズいな。
 まあいいか。途中まで出かかったものは、全て出してしまおう。でないと気持ち悪い。

「カラーは人が生まれ持った物。戦隊証はきっと、それを具現化する手助けをしているだけ……だと思う」

 カラーとは恐らく、私がイロと呼んでいる物と、同義だろう。1人1色持っている物だ。
 私は恐る恐る先生の顔を見た。しゃしゃって怒られるかと思いきや、違った。先生は私を見つめ、にっこり笑っていた。
「聡いな、小豆沢七海。あのスピーチもブラボーだった」
 あれ? 式の時先生はホールに見当たらなかったが、どこに居たんだろう。
 先生は人差し指を上に向けて言った。
「僕はお日様みたいに高い位置から見ていたんだよ♪ きみのスピーチは、今まで聞いた中で一番だった」

 そ、そうだったのか。
 私のあのスピーチ、そんなに良かったのか? むしろ教師陣からは不評だと思っていた。
 嬉しくあると同時に少し照れ臭い。私が先生から目を逸らしたのは、単に彼のイロが眩しかったからというだけの理由では無いだろう。

 すると楓が耳打ちしてきた。
「ぐけんかってどういうイミ?」
「楓って頭悪い?」
「ざけんなっ」


「では実際にやってみよう。全員、STAND UP!」
 先生の号令により、全生徒が起立した。私も立ち上がる。
「ど、ドキドキするねえ七海ちゃん」
 楓は立ち上がると、私の鼻の辺りの高さに頭頂部がきた。小柄なのは座位の時点でわかっていたが、私より10センチくらい低そうだ。

「ちょっとだけ心の準備をする時間をあげようかな~? ハイッ、シンキングタ~イム! きみたちはどんなカラーの戦士に成るのかな?」

 先生にそう言われると、何だかワクワクしてくる。生徒たちは皆小学生みたいに浮かれていた。
 私は教室を見渡し、皆のイロをカンニングした。向こうの小柄な女子は黄色、その後ろの大柄な男子はピンク、その後ろの男か女かわからない子はちょっと珍しい、オレンジ……

 彼らの持つイロが、戦隊カラーとして身をまとうのだろう。

 でも、1人だけ、どうしても。
 どうしてもわからない、イロがある……


「私は、何イロなんだろ」


 自分で自分のイロは見えない。

 イロは身体的特徴と必ずしも密接に関係しない。
 私だって、煌めく赤や、透き通った青や、シャイな黄色や、森閑とした緑や、弾けるピンクや、大人びた茶色や、気味の悪い紫に……
 なれるはずだ。

「お願い。ならせて」

 私は改めて先生を見た。先生は私が見ていることに気付き、再び笑みを見せてくれた。日光を受け、日影ばかりだった私の心の土壌に、希望が芽生えた。
 この先生を信じよう。私はこの学園で、カラフルになるんだ!

「それじゃあみんな、一斉にいくよ!!」
 先生の音頭に合わせ、全員が一斉に詠唱する。

「3・2・1……ブレイクアップ!!」

「ブレイクアップ!!!!!」

 私は少し遅れて叫んだ。
「ブレイクアップ!」

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10 :げらっち
2024/05/01(水) 13:11:47

 予想していた感覚とは、真逆であった。
 カラーは身を包み、鎧のように、外側を補強するものと誤謬していた。
 でもよく考えれば、イロは私たちの内側にある。
 蝶がさなぎを突き破るように、ザリガニが脱皮をするように、自分の中にある本当の自分が、真の姿を曝け出し、拘束から解かれるような感覚だった。

 開放感。きもちい。
 これが本当の自分なのか。

 戦隊証が光り、私の体も光り、目の前が真っ白になる。私は固く目を瞑った。


「俺赤だ! うっし!」
「グリーンだ! びみょーかよ!!」
「あっ水色~かわいい!」
「うわ、お前金色かよ! すげえ!!」
「男なのにピンクとか!!」
「別にいいだろ!!!」
 各人変身の成功を讃え合ったり、野次を飛ばし合う声が聞こえた。

 私は恐る恐る目を開けた。変身、できたのだろうか。

 全身が何かにコーティングされてるみたいだ。
 顔がすっぽり覆われているものの、視野は狭くなっていないし、呼吸も苦しくない。むしろ塵や呼気にまみれた空気を濾すフィルターになっているようで、濃い酸素が取り込まれ、体が軽やかだ。髪はどこに収納されたのだろう、と思って頭を触ると、後頭部がぽっこり盛り上がっている。変身時に勝手にまとめられたようだ。随分手際が良い。
 私は振り向いて、楓を見た。イロが発現した彼女は、どんな姿だろう。

「あたし本当に青だ! 七海ちゃんの言う通り!!」

 海の色の戦士が、自分の体を眺めながらぴょんぴょん飛び跳ねていた。
 顔を覆うマスクも、体を覆うスーツも真っ青。黒いベルトが締められており、裾はミニスカートのようになっている。腕に装着されたグラブ、足に装着されたタイツとブーツ、それらも青づくし。
 きっと私も彼女と同じような服装になっていただろう。

 楓は私の姿を見るなり動きを止めた。
「七海ちゃんは……ホワイトか!」


 私は自分の手、そして体を見た。


 私は真っ白い戦士に成っていた。


 私は呆然と、周りを見渡した。
 教室ではしゃいでいる生徒たちは様々なカラーの戦士が居たが、白は私の他に、1人も居なかった。
「おい見ろよ!!」
 赤い戦士が私を指さして笑っていた。天堂茂の声だった。彼はレッドへの変身を成功させたようだ。男子のコスチュームは女子と違い、スカートではなくパンツスタイルとなっている。
「なんだありゃ! 変身に失敗したのか?」
 周りに居た生徒たちもぎゃははと笑う。


「……やっぱり私は、白なんだ」

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11 :げらっち
2024/05/01(水) 13:12:05

 戦隊への変身、それは真っ白い私を色付けしてくれるもの、そう願っていた。
 でも私のイロは白だった。色も、イロも、白……

「私は、真っ白のまま……」

「七海ちゃん!」
 楓が両手を、私の両肩にポンと置いた。
「白もめちゃいい色じゃん!!」
「え?」
「ねぇ見て。ここにはいろんな色の人がいるけど、同じ色の人は1人も居ないよ。同じ赤でも濃いのも薄いのもあるし、無限のグラデがある。白もその1つだよ!! あたしは七海ちゃんの白が、大好き!」
 マスクには目を囲うように透明のゴーグルが付けられている。その下からくりくりした楓の目が見つめてくる。
 私はその目を、睨み付けてやった。
「気休めはやめてよ楓」
 私は彼女の手を振り払った。

「白なんて大嫌い。じゃああなたが白になってみれば? 根本的な解決にならない自己満の持論を、どうも有難う。あなたの配慮もセンスも無い同情で、私のみじめな人生も、1ミリくらいは報われたかな」

「は?」
 楓の目が、信じられないというふうに見開いた。

「何なの? きも! ムカつく!! じゃあ知らん! 勝手にくよくよしてれば??」

 こんなことを言うのは私だって本意ではない。
 でも私の心は凍り付いて、トゲトゲで。ちょっとやそっとじゃ溶かせない。
 こんな学園に入ってもカラフルになんてなれないし、友達もできない。結局私は白いまま。独りぼっちのまま。私の日記は過去も未来もずっと白紙だ。

 楓は腕を組んで、黙ってそっぽを向いてしまった。

「COOL DOWN。落ち着け」
 先生が言った。教室全体が、ミュートしたように、静まった。

「みんな、初の変身おめでとう♪ それがきみたちの、戦士としての姿だ。最初は皆カラーこそ違えど、同じようなシンプルな外見だろう。心技体を磨いていくことによって装備が変化し、世界でただ1人の戦士と成れる」

 先生は真っ赤な戦士に成っていた。
 それも生徒たちとは違い個性的だ。ポンチョのような独特な衣装となっており、ベルトの部分にはGというマークがあった。

「変身するとパワーがみなぎるだろう? それがきみたちの、真の実力だ。教室では窮屈だろう。校庭に出よう! おやおや、ちょうどよく晴れたじゃないか♪」

 先生は窓の外を指さした。
 私は窓のほうを見た。さっきまで薄曇りだった空が、晴れている。射し込む陽光で、視界が白く霞んだ。

「っ!」

 まぶしい。

 見えない。

 私の身体は、色素が、メラニンが欠如している。日差しの下に出るのは、防寒着も無しに素っ裸で南極を歩くようなものだ。
 白い肌は太陽光を浴びると激痛が走り、やけどを負ったように発赤し、ただれてしまう。
 青い瞳は遮光性が少なく、アルビノでない人なら耐えられる程度の光でも眩しく感じる。

 晴れの日にお散歩に行くこともできない。青空を眺めることもできない。

 先生は「ついて来い!」と言うと、子供のように先陣を切って、廊下に走った。
 生徒たちも浮かれて、我先にと続く。楓は私に目もくれずに行ってしまった。1000ものペアルックが私の前を通り過ぎ廊下に出て行ったが、白い戦士は1人も居なかった。
 天堂茂がしんがりとなって言った。
「お前は来ないのか? 小豆沢七海」

 私は、席に座って、うつむいていた。

「行きたくない」

「ほう、そうかい!! 時間の問題とは思っていたがもう落伍したのか。まあ知り合えたのも何かの縁だ。退学届の書き方くらい教えてやってもいいぞ」
 天堂茂は笑いながら、とどめを刺すかのようにわざわざ電気を消して出て行った。
 喧騒も熱気も去って、私は薄暗い教室で、1人ぽっちになった。

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12 :げらっち
2024/05/01(水) 13:12:37

 私は教室で、沈黙していた。
 変身は解けていた。解き方など習っていなかったが、気持ちが沈むと、殻に閉じこもるように、元の私に戻っていた。

「では自由時間とする! 学園の中を好きに回っていいよ!」
 校庭からは、赤坂先生と生徒たちの声が聞こえている。
 でも窓の外を見る気にはなれなかった。
 いや、見られなかった。日の光りは私には眩しすぎる。

 私はお日様が大嫌いだ。
 ピカピカの晴れなんて、だいっっきらいだ。

 カラフルなんて縁遠い物だ。わかり切っていただろう七海。
 戦隊学園に入れば何かが変わると思っていた。でもそれはすぐに消えてしまう蜃気楼だった。天堂茂の言う通り、退学届けを書こうか。


 私はふさぎ込んでいたから、イロが近付いていることにも気が付かなかった。

「見えているね?」

 私は顔を上げた。教室に、赤い戦士が入ってきていた。
「赤坂先生……」
「いつみでいいよ」
 先生は私の机に歩み寄った。
「戦士としての名は、Gレッドと言う。教師陣で編成された、学園戦隊Gレンジャーのエースだ。この学園では、誰とでも戦隊を組んでいい。色んなカラーのメンバー同士でチームを組むんだ。基本は5人か3人、もしくは5人に追加戦士を加えた6人だが、それ以上の人数でも、何人のチームでもいい。きみは式で、色とりどりになりたいと言ったね?」
 先生は燃えるような赤だ。眩しさに、私は目を瞑る。
「白い私にはもう関係の無い事です」

「きみには人の有するカラーが見えているね? 素晴らしい能力だよ。きみのような生徒は初めてだ。きみなら虹を作ることができる」

「虹を?」
 私は細く目を開ける。
 私はこの目のせいで青空を見れない。私が見る空はいつも寂しい曇天か、泣いている雨天だ。虹なんて夢のまた夢だ。
 一度も虹を見たことが無いのに、虹を作ることができるとは、どういう事だろう。

「1人きりで七色になる必要はない」
 先生は教壇に上がると、黒板に曲線を引き始めた。次第にそれがなんであるか見えてきた。彼は虹を描いていた。
 赤、青、黄、緑、ピンク、紫、そして、白のチョークを使い、綺麗な、虹ができた。
「あれ? 虹に白なんてあったっけ?」
 私は虹を直視したことが無いのでわからないが、確か知識では、虹に白は無かった気がする。
 だが先生は言った。
「これが虹だ。虹に白はあるんだよ」
 そうなのか、虹に白はあるのか。私も虹の一員になれるのか。

「戦隊はチーム戦だ。カラーを見極めるきみのその目で、カラフルなメンバーを集め、戦隊として、虹になればいい」

 私は黒板の虹がうらやましかった。私には見ることも、なることもできないカラフル。
 色とりどりな仲間を集め、虹色の私になる、か。
 なってみたい。虹を見てみたい。

 先生は変身を解いて、にやりと笑った。
「期待しているよ、小豆沢七海♪」

「ありがとう、いつみ先生」

 先生は私に目標と希望をくれた。さあここがスタートラインだ。


つづく

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