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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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287 :げらっち
2024/07/12(金) 20:46:08
自然が開けた。
「ここは……」
私たちの居る場所は高台になっており、人類の痕跡が見渡せた。
「学園じゃないことは確かだね」
学園ではない。
シティでもない。
街だ。
詳しく言うと、赤の日以前には機能していた、元・街だ。
荒廃した街を見渡す。
かつては繁華な眺望だったに違いない。だが、今は景色全てが死んでいた。
ビルはジェンガのように崩れ、広場には大きなクレーターがあり、そこら中に壊れた建物や車が散らかっている。その全てが灰に包まれている。生命は見当たらず、その遺品があるのみだ。
赤の日、日本は人口の半分を失った。行政も機能しなくなったとされる。
赤く塗られなかった集落の人々は、懸命に生き続けようとしただろう。それでも赤血球を失えば栄養が滞る。白血球を失えば外敵から無防備になる。血小板を失えば傷が治らなくなる。戦争や怪人の襲撃により、人類はみるみるうちに激減したのだろう。
「降りてみよう」
私がそう提案すると。
「やめーや!」
公一が言った。
「寄り道せんではよ学園に帰らへんと。見てるだけで胃がむかむかしてまう」
「凶華がさっき言ってたでしょ? 暗くなる前に安全地帯を見つけなきゃって。ひとまずここで態勢を整えよう」
「街が森の中より安全とは限らないぜ? 何かが潜んでいるかもしれないのは、ここも同じだ」と凶華。
「じゃあせめて荷物は置いて行きましょう。重くてもう限界ですし……」と佐奈。
私たちはリュックを下ろし、木陰に置いた。
「街の中がマズかったらここに戻ってこよう」
私は斜面を降り、街へ入って行った。凶華が、佐奈が、楓が続いた。
「ど、どうする? 豚」
「七海ちゃんが行くなら行くブヒよ」
「しゃあないなあ……」
コボレの面々は三々五々、散らばった。6人しか居ないけど。
街にはひとけも無ければイロも無かった。
灰色の街をスニーカーで歩く。
ショッピングモールには飛行機が落っこちている。かつて親子が買い物を楽しんだであろう建物に鉄の翼が突き刺さっている。現実離れした様は芸術作品のようですらあった。
信号機は折れ曲がり、車の通らなくなった道に首を垂れている。バスは横転したまま、誰かが抱き起こしてくれるのをずっと待っている。
駅のような建物の前に着いた。駅前広場はかつての喧騒を忘れ去り、ぽっかり開いた大穴に占拠されている。これでは政治家が演説を行うことも、路上ミュージシャンが見向きもされない曲を弾くこともできまい。二階建ての駅舎は穴だらけになり、電車が飛び出し、ぶら下がっている。
多くの死を感じた。それは、かつての生。
自然と合わせられた両手を見て驚愕した。私はいつの間にか、拝んでいた。
私は神も仏も信じていないのに。死んだのは顔も声も知らない人たちなのに。それでも人類の一員として、彼らを追悼しようという心が私にあるらしかった。
「珍しいね」
声の主は佐奈。無音の街では、彼女の小声もよく聞こえた。
「同情なんてしない主義の癖に」
「別に同情ではないよ」
「じゃあ何なのさ?」
私はちょっとだけ考えて言う。
「せめてもの礼儀、かな」
佐奈は乾いた声で笑った。「らしくなーい」と言って。
「それで佐奈、水とか食糧とか、使えそうな物はあった?」
「んなのあったらとっくに腐るか誰かが取ってますよ。それより……」
「それより?」
佐奈はもじもじと足をくねらせた。
「トイレ……どこ……? もうガマンの限界……」
そういえば私も、出発してから一度もトイレに行ってないではないか!
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