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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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288 :げらっち
2024/07/12(金) 20:46:26
「最悪そこら辺ですればいいんだよ。誰も見てないだろうし」
「は? それじゃ男子とおんなじですよ。江原くんと豚はさっき立ちションしてたけど」
ナニ!? 佐奈はそれを目撃したのか……?
「七海さんそんなんでいいと本気で思ってるの?」
「いや、私にも女の子のプライドがあるし、できる限りは御手洗いでしたいけど」
私と佐奈は尿意を必死に封じつつ、死に物狂いでトイレを探した。そして、ついに見つけた。
自動ドアは粉砕されており、辛うじて剥げ掛けた看板が、ここが元々コンビニであったことを示している。商品の類は既に先客たちによって持ち去られたようで何も残っちゃいないが、その奥に何よりも欲していたお宝発見。
トイレットである。
たった1つしかない。
「じゃ、うち先でいいよね?」
「ど、どうぞ。り、リーダーとしては当然、譲るよ」
佐奈はるんるんスキップして個室に入った。
余裕ぶっこいてしまったが、私も限界が近いのだ。手のセルフマッサージをしたりして気を紛らわせつつ、待つ。佐奈、トイレ長い……
「くうっ」
店の外に出て忙しなくその場足踏みしていると。
「ナナ」
「うわ!!」
いきなり背中に声をぶつけられ、飛び上がった。下手するとお漏らしする所だった。振り向くと凶華の紫。
「び、びっくりさせないでよ」
嗅覚や聴覚は背後の情報も拾えるが、視覚は視野の外にある物は捉えられない。それが私の共感覚の盲点だ。
「無警戒過ぎるんじゃねえのか?」
「要点は何?」
「つまりだな」
凶華は私の鼻を、つんっと触った。
「まだ気付かないのか? って言いたいんだ」
凶華は目を閉じ、鼻をぴくぴく動かした。
この犬の嗅覚の共感覚は、時として私の視覚よりも広範な情報をキャッチする。
私は周囲を見渡す。凶華の紫、トイレを終えてやってきた佐奈の黄を視認。目を凝らすと、離れた位置に青、緑、桃も感じられた。だがそれ以外は何も感じられない。
「どったの七海さん」と佐奈。
「オイラは感じるぜ? 死臭を」
たらり汗をかく。それは蒸し暑いせいだけではない。
凶華に気付けて、私に気付けない事。
私は人間以外にはイロを感じない。でも凶華はそうでないとしたら? 凶華は私なんかよりよっぽど鋭敏で、霊長類ヒト科以外の存在も覚知できるとしたら?
「おーい、七海さん。トイレ空きましてよ?」
「シッ静かに」
私は佐奈を制し、平均台の上に居るかのように、佇立しバランスを保った。迂闊に動けない。何も知らずに歩いてきた道が薄氷の張った池で、引き返したくとも、身動きが取れないかのように。目だけを動かして周りを見た。
共感覚なんかに頼らずに見れば、それは見えた。
ぶるっ
全身を寒気が走り、私は失禁した。ジャージが足元まで濡れ、ぽた、ぽた、まだ生きている証が地面に垂れた。
「うわ何してんの七海さん!! ガマンしきれなかったの!? きちゃなっ!」
そんなことはどうでもいい。
灰色の街に潜む灰色。あっちにもこっちにもそっちにも。
怪人、怪人、怪人だ。
瓦礫の隙間から、死んだ顔が幾つも幾つも飛び出して、こっちを見ていた。どっちを見ても目が合った。恐怖ですくみ、動けない。逃げなきゃ、叫ばなきゃ、仲間に危険を伝えなきゃ。変身しなきゃ。戦わなきゃ。すべきことはわかるのに、何1つ行動に移せない。
私は凶華のジャージの裾を引っ張った。
「どうするんだよ、リーダー」
私は雑巾をひねるように、かすれた声を振り絞る。
「逃げて」
爆音。
それがスターターであるかのように、私は佐奈の手を取り、そして叫んだ。
「走って!!!」
小学校の運動会だってこんなに全力では走らなかった。
先頭を行くは俊足の凶華。怪人たちの合間を抜け、逃げ切る道筋を見つける。私と佐奈はがむしゃらに足を回転させ、それを追う。
怪人たちは全身灰を被ったようにグレイで、灰色の街と同化していた。静かにホーミングしてくる様は生気が無いが、目だけは血走っていた。何故私たちを追うのか。餌に群がる鳩のように、光りに集う虫のように、久々にこの街に入り込んだであろう生命に、すがりたくてすがりたくてたまらないのか?
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