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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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292 :げらっち
2024/07/12(金) 20:55:21

第27話 白兵戦


 私たちが命からがら逃げ出した街は、溶鉱炉のように激しく燃えていた。余りの眩しさに、私は目を逸らした。

 楓はえずき、佐奈は豚にしがみ付いている。
 公一は私をそっと抱きしめてくれた。

「青臭いな。知らなかったのか? 外の世界を」
 凶華だけはこの光景を見て何も思わなかったようだ。凶華は元々外の世界の住人である。

「戦争が行われてるって情報を、知らなかったわけじゃないよ。でも私は壁に囲まれたシティで育った」
 シティ13は戦隊学園と同じ、安全な閉鎖空間だった。いじめや差別が蔓延する箱の中でも、箱の外よりは遥かに安全だ。私は箱入り娘だった。
「戦争を見たのはこれが初めて」
 授業ではなんにも教えてくれない。

 昔、世界規模で行われた大きな大きな運動会があった。日本はドイツやイタリアと同じチームだった。ドイツはいじめっ子で、ユダヤ人をいじめていた。それと同じような嫌がらせを、日本はアジア人にしていた。調子に乗ってアメリカにちょっかいを出してコテンパンに負けた。
 その時に何も学ばなかったのだろうか。歴史は悲劇であればあるほど、繰り返す。

「ワールドファイブの人たちは? 助けないの?」と楓。
「もう助からないよ」
 尚も赤々と燃え続けている街。それでもさっきまでの死の街よりは、ましかもしれない。炎は正義も悪も怪人も、平等に火葬してくれる。
 私は火光に背を向けた。
「僕たちも戦隊として戦地に出たら、あんな風になっちゃうのかな? 余りにも呆気ない」と豚。
「そうはならないよ」
 根拠なんて無いけど。自分を励ますためにそう言った。


 たすけて


「ん?」
 私は周囲を見渡し、耳を澄ませた。差出人不明のSOS。

 たすけてぇ……

「悲鳴が聞こえる。女の子だ!!」
 幼い少女と思われるか細い声の救難信号。私は木々の合間を見た。イロは見えない。
「どこブヒ!?」
「助けよう七海ちゃん!!」

「勿論」

「待て」
 そう言ったのは紫のアイツだった。
「凶華? どうしたの?」
 凶華は犬歯を覗かせて笑った。
「この世界は、生きるか死ぬかだ。他人の心配している余裕なんて無いだろ?」
「何言ってるの?」
「いや、凶華くんは現実的ですよ」
 佐奈が凶華の側についた。
「罠かもしれない。ここは戦場、非情な場所です七海さん。たった今それを見たでしょう。お人よしは辞めにして」

 私は我が耳を疑った。

「お人よし? 私は善人ではないよ。でも幼い子供を見殺しにするほど根性腐ってないから!」
 声の主は怪人に襲われているのかもしれない。悪の組織に脅かされているのかもしれない。
 私も今し方そんな恐ろしい目に遭った。幼い子供がそんな目に遭っているのかもしれないのに、放っておくなど心の冷たい私でもできない。こうして言い合っている余裕も無いはずだ。
「何とか言ってやってよ公一」
 私は公一の骨ばった肩を叩いた。彼なら私を擁護してくれると信じた。でも彼は険しい顔で言った。

「忍者の世界は厳しい。自分が生きる為なら他人を見殺しにする世界や」

 変だ。滑稽だ。
 凶華加入反対派だった2人が凶華の味方をしているのも少し意外だが、それ以上に、性悪説を唱える3人には幻滅だ。

「あっきれた。あなたたち、そんなんでよくヒーローを目指す気になったね?」

「3vs3、多数決は水入りブヒね。どうしよう?」
「どうしようって、答えは出てる」
 私はがなった。
「本当に困っている人を助けないならヒーローじゃない!! ここはリーダーの私に従って貰う。あなたたちに」
 公一はうつむいて、
「拒否権は」
 佐奈は睨んで、
「ありません!!」
 凶華は笑っていた。
「ナナ、面白い匂いがムンムンするよ。そうまで言うなら確かめたら?」

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