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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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305 :げらっち
2024/07/12(金) 21:00:03

 死。それは重い物だ。それも肉親の死となれば、何の躊躇も無く発せられる言葉ではない。それでも楓は淀みなく発音した。

 このあほで明るい楓が、下ろすことのできない重い荷物を背負っていようとは。

 気になる点があった。
「赤の日はあなたが生まれる前の出来事じゃないの?」
 赤の日は2028年4月1日であり、赤の世代の全員がそれ以降に生まれたことになる。
 楓が実は1つ上の学年で、留年していたんだとすれば話は別だが……

「あたしの誕生日は、2028年8月24日」

 楓の誕生日、初めて知った。

「でもそれは出産日でさ、生命としてはもう存在してるんだよね。赤の日に、あたしの家族、正確には、あたしのパパとお兄ちゃんとお姉ちゃん2人。全員死んだ」
 死の重さは加算でも、乗算でも無いはずだ。1つ1つが比べられない重さを持っている、はずだ。
 だが楓は軽く言ってのけた。
「生き残ったのは2人だけ。ママと、お腹の中のあたし」
 楓は自身のお腹をさすった。
「ママは、あたしを生んでくれた。パパは、あたしに名前を遺してくれた。楓って名前、パパが付けてくれたんだって。あたしの家族、みんな植物の名前」
 楓はつらつらと話した。父が銀杏(いちょう)、兄は榎(えのき)、姉は欅(けやき)と椛(もみじ)……


 楓、この子は重い過去を持ちながら、それを周りに気付かれないくらい、逞しく、前向きに生きているんだ。
 私なんかより、よっぽど強く、偉い。大人だ。


「赤の日に、どんなことが起きたか知ってる?」

「……知らない」
 私にはまだまだ知らない事が多すぎる。

「真っ赤な巨人が現れて、世界を赤で塗り尽くした」
「まじ?」
 私は幼稚な打消推量をしてしまった。マジ使いは楓の方なのに。
「まじ。赤害(せきがい)って呼ばれているよ。赤い巨人は1日で地球の半分を塗ったくった。赤く塗られた所に居た人は、命を落とした」

 虹の御伽噺に、赤害。楓は物知りだ。
 楓が知っている色関係の言葉なんて、アオカンくらいだと思ってたのに。

「あたしの家族、出会う前に塗り潰されちゃった。ま、あたしが生まれられただけでも奇跡だけどね。ママは再婚して、腹違いの妹も居るよ。再婚相手のパパが性格最悪でさー、妹ばっかり可愛がってるし、ママは口出しできないし……」
 以前楓が、最悪な妹が居ると言っていたのは、こういう事だったのか。

「だからあたしみたいな子がもうできないようにって、あたしは戦士を目指してる」

「……立派だね」
 虹を見たい。カラフルになりたい。そんな自分の願いの為だけにヒーローを目指す私なんかとは、大違いだ。

「……ってのは建前!!」

「え!?」

「こんなあたしを作ったこの世に復讐してやりたいって、そう思ってる。これは伊良部楓の復讐劇」
「私はその物語の脇役?」
「そういうわけではないよ。七海ちゃんは七海ちゃんの物語の主役だよ!」
 楓は星明かりの下、無邪気に笑うのだった。
「ねえ七海ちゃん。あたしは全部話したよ。七海ちゃんのことも、もっと知りたいんだけど」
「何? 何でも聞いていいよ。隠さず教えるよ」

 ……と言ってしまったが、楓みたいに重い過去を明るく話せる自信は無い。
 何でも聞いていいと豪語しながらも、どんなローブローが飛んでくるのか、私は身構えた。

 楓は言った。

「誕生日いつ?」

 私は肩透かしを喰らった気分だった。
「そんなことかい!」
「あたしも教えたんだから七海ちゃんも教えてよ! お祝いしたいよ!!」
「教えるよ。別に隠すつもりは無いし」
「いつ?」
「4月1日」


つづく

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