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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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345 :げらっち
2024/07/22(月) 18:20:02
11時、試合開始。
いつみ先生を合わせたコボレの7人は、フィールドに足を踏み入れた。ジャリ、スニーカーで敷き詰められた白砂を踏む。広がるのは曇天。晴天の下の熱戦を期待した観客たちは残念がったかもしれないが、私にとっては九死に一生。
どうせ相撲の時のように完全アウェイ、コボレに対しブーイングの嵐だろう。そう思っていると。
「コボレ!! コボレ!!」
「七海! 俺たち応援されてるみたいやぞ!!」
「え? そんなわけ……」
我が耳を疑いたくなったが、確かに聞こえる。
「コボレ!! コボレ!!」
2000のオーディエンスが大歓声を上げ、私たちの入場を歓迎していた。
「コボレ!! コボレ!!」
1年生の無名戦隊の快進撃に、生徒たちは徐々に興味を示し、応援するようになっていたのだった。
「ラッキーだね七海ちゃん!!」
「ありがたいブヒ~」
「天堂茂が聞いたらアナフィラキシーショックを起こすやろな!」
皆喜んでいたが、私は釈然としなかった。ずっとコボレを否定し非難し攻撃してきた癖に、手のひら返しか。誰かがコボレを叩けば、皆も便乗する。誰かが注目すると、皆もそれに従う。自分が無い奴らって、大嫌い。それならずっと叩かれていた方が、マシだ。
『心はレディーのジェントルメンも! 見た目はボーイのガールズも! 実況はおなじみ、配信戦隊ジッキョウジャーの実況者YUTA! ついにこの日がやって参りマシタ! 戦ー1の最終決戦、泣いても笑ってもバズっても炎上してもこれが最後!!』
放送が観客たちを囃し立てる。
『片や音楽戦隊ピアノワン! アーティストクラス首席による謎の多い戦隊デス。対するは虹光戦隊コボレンジャー! 1年生のクラス混成、大穴ながら、ここまで勝ち残ってきマシタ!! 皆さん盛大な拍手を!!』
観客席は熱狂の渦に包まれた。
佐奈がいつみ先生に言った。
「先生、コンディションは良さそうですね」
「そう思うかい?」
先生は日食のような、陰りのある笑みを見せた。
「アウェイをホームに変える。それがピアノマンの恐ろしい所だ」
え?
『敗北を認めるか、フィールドから離脱したら負けというシンプルな勝負デス。それではレディーゴー!!』
歓声を引き裂くように、荘厳で、風格のある音色が聴こえた。
フィールドの向こう側に、グランドピアノが置いてある。
燕尾服を着た男性がピアノを弾いていた。その頭はすっぽりと箱の様な物に覆われていた。その立方体に、♪マークが書いてある。
男性は演奏しながら喋った。
「バッハッハ……アウェイへようこそ! 私は半部果て菜。またの名をピアノ・ワンと言う」
男性は中年の様な低く太い声で喋った。本当に学生なのだろうか。
「変身しないの?」と楓。
「必要ない」
男性は鍵盤を叩く。
心臓を直接叩かれたような衝撃が走り、私は苦しみのあまりのけ反った。
「かはっ!!」
「しっかりしろ!」
公一に背を支えられる。
「先生、これは!!」
「シューベルトの【魔王】だ。七海、きみを殺しにかかっているぞ」
ピアノから紫色の悪魔のような影が立ち上がっているではないか。
「よくも七海を。棒手裏剣!」
公一が棒状の暗器をピアノに打ち付ける。ガツン! 演奏は一時中断する。
半部果て菜は低い声でこう言った。
「音楽には音楽で勝負しろよ」
私は公一を押しのけ、進み出た。
「望む所。この日のために練習してきたんだからね。コボレ楽団の演奏、聞かせてあげるよ」
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