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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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347 :げらっち
2024/07/22(月) 18:20:46

 いつみ先生は教師であり、直接参戦できない。もし攻撃をすれば反則になってしまう。
 先生は「指揮者」、文字通り指揮する者。監督であり、ゲームマスターだ。
「ライジング・サン」
 先生はふわっと浮き上がり、太陽のように、みんなを照らす位置に昇った。

 2000の生徒、400の戦隊がコボレに攻撃を仕掛ける。
「ソウデンジャーの一子相伝暗殺カーニバル!!」
「ホームランジャーのデッドボール・マシンガン!!」
「スペースファイブの宇宙怪光線土星の巻!!」
「トイレンジャーの水栓スラッシャー!!」
「スイカレンジャーの種ガトリング!!」
「ダイノマンのスピノボンバー!!」
「ビームジャーのビーム!」
「えー、本日お集まりいただいたみなさん。わたくし、演説戦隊ナガインジャーが選挙カーに乗ってコボレンジャーの奴らに説教して参ります」

 360度包囲され、400の攻撃が、私たちの居る一点に向けて収斂してくる。

 いつみ先生は空中にて、情熱的かつ精密な指示を出す。
「5色は伏せろ!!」
 私たち5人は伏せる。
「そこだ凶華!」
「ワオーン!!」
 凶華はマーチングの風物詩、カラーガード。虹色のフラッグを一回転、400の攻撃を一撃で薙ぎ払った。

 この3週間、私たちは合奏の練習を急ピッチで進めたのだ。

 コボレ用に楽器が搬入されていた。私たちはそれぞれの楽器を取り、先生の指揮で演奏する。

 公一はオーボエ。木管楽器の中でも特に難しいとされる。
 それでも彼は器用に技量を上げていた。飄々とした低音は派手でこそないものの、無くてはならない存在。
 音はフィールド全体に染み渡り、じわじわと敵のエネルギーを奪い取っていく。

 佐奈はパーカッション。
 小さな丸椅子に座って、彼女を取り囲むドラムやシンバルを殴打する。激しい動きと音で私たちを鼓舞してくれると同時に、電気の弾を飛ばし戦士たちを気絶させた。彼女は小柄な中に凄い熱量を秘めている。
「カミナリ充填!!」
 バチをせわしなく動かし、電力を溜めていく。
「豚! 準備は良い!?」
 豚はティンパニー。
「オッケーブヒよ!!」
 リズミカルに、ボン、ボン、太鼓を叩く。低く轟く大きな音。地面が揺れる。コボレを支える力持ち。
 佐奈と豚は声を合わせ、唱えた。

「ポータブル天変地異!!!」

 2人の周りの空間がくつがえった。哀れ戦士たちは地面から突き出した雷に吹き飛ばされ、上空に落っこちて行った。

 楓はトランペット。金管楽器の王様だ。
 プァ!!
 甲高い快音が、戦士を殴り付ける。
 練習期間が極端に短く、楓に素質があるとも言い難いため、あまり上手くはない。むしろ音痴だ。
 それでも彼女の飛び跳ねるような元気さは、合奏の花形に相応しかった。音の力押しで生徒たちを寄せ付けない。

 私はというと、リコーダーを握りしめていた。

 上空の先生を見て、指示を仰ぐ。
 先生は赤いマスクをこちらに向け、小さく頷いた。
 私も頷く。
 ウインドウェイをマスク越しに口付け、優しく息を吹き込んだ。

 先生の音楽プレイヤーに入っていた曲。この3週間、何度も何度もリピートした曲。
 昔の吹奏楽コンクールの、課題曲ともなった旋律。
 晴れ渡る空を想起させるこの曲は。


【 ブルースカイ 】


 半部果て菜の弾く、威厳のあるクラシックにも負けず。
 私のリコーダーから、透き通った音色が飛んだ。

 その音は素朴で、どこか、儚かった。

「ああああ!!」
「ああ……うああ!」
 戦士たちはダガーを、ライフルを、ウォーハンマーを、鞭を、ハリセンを、スイカ用スプーンを……それぞれの武器を取り落とした。
 この無垢な音の前に、戦意は役に立たなかったのである。

 半部果て菜は淡々とピアノを弾き続けた。
「武器を拾え。優勝は我がピアノマンだ」
 だがその声は、明らかに狼狽していた。

 楓と凶華がフィールドを駆け回り、敗残兵たちを蹴散らしていく。

 曲目はサビに差し掛かった。
 頭の中に浮かぶのは、自由で広い大空。


「私には虹が見えないの。それでも、聞くことならできる」


 ドレミファソラシド、その七音が、七色の虹となった。

「ぐぅうう!」
 半部果て菜は拳で鍵盤を叩き壊した。血飛沫が飛ぶ。
「何だ……この感動は……!」

 先生は指揮を終え、地に降りた。
「これでコボレの優勝だね♪」


「まだだ」

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