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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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382 :げらっち
2024/08/01(木) 14:23:02
1階に着くと、廊下のベンチに、崩れるように座り込んだ。
部屋には帰りたくない。
何故なら、楓に会ってしまうから。
楓は、私が彼女の父親を殺したことを知ったら、どんな反応をするだろう?
楓は自身の名前を、父親からの唯一のプレゼントとして。名付けられたという事実を、父親との唯一の思い出として。宝物にしていた。金銀財宝よりも価値のある宝物。
その父親は、楓の名前を叫んで死んでいった。私が、楓の仇と思い込み、必死になって、殺した。
私は両の手のひらを開いて見た。真っ白い五指。
人を殺すとは、恐ろしい手だ。
どす赤い血がこびりついているように見える。怖くて怖くてしょうがない。私は両の手のひらを、互いの爪で研ぐように擦った。次第に本当の血が出て、手は血まみれになった。
戦隊学園の目的は怪人を殺す戦士を作ること。私はこの先も、怪人を殺し続けなければならない。元は人だった、誰かの家族だった、怪人を。
「やだ」
私は手で顔を覆い、塞ぎ込んだ。
「やだ、できない、むりだ」
独語は弱音にまみれていた。
プロの戦士たちは躊躇も悔悟も無く怪人や敵兵を殺す。いつみ先生は怪人退治に私怨や私情は要らないと言った。私も、そう思えばいい。そう思えば……
「むりだよ!!!」
立ち上がり、胸ポケットから戦隊証を取り出し、床に叩き付けた。みじめな自分の写真が載っている罪悪の紙切れ。
拾っては叩き付け、何度も踏み付ける。引き裂いてやろうかと手に取るが、これは学園では大事な物なんだという、わずかに残った理性が手を止め、クシャッと折り曲げるだけにとどめた。
そして泣いた。
「ああああああん!!!」
重荷を背負っていなかった頃に、戻れたらいいのに。
これが私の暗闇か。仲間を失い黒にまみれたブラックアローンのように、私も。
束の間の虹を見た後、友達を無くし、心を壊し、光りの無い人生を送るんだ!!
「おい」
「何だよ!!」
突如誰かが話しかけてきたので、乱暴に振り払った。
廊下を通る生徒たちは荒ぶる私を見てひそひそ話をしていた。
話し掛けてきたのは、凶華だった。
「どうしたんだよナナ。突然部室から出て行っちゃうから探したよ。酷い顔だぜ。何してんの?」
凶華は無邪気に笑って私を見ていた。
私の顔は手のひらの血液がべったりと付着し、血で化粧した化け物のようになっていただろう。
暴れても意味など無い。クールダウンするんだ七海。
「ベ、別に。何でも無いけど? 何でも無い」
私はパーカーの袖で顔を拭いた。血が染み付いた。
「……ねえ凶華。友達を失くしそうな時、あなたならどうする?」
「うーん、そうだな」
凶華は癖っ毛をポリポリ掻いた。
「オイラには友達が居ないからわかんないや!」
「え?」
私たちは友達認定じゃないの?
「オイラに居るのは、飼い主でありリーダーであるナナと、その仲間たちだけだ。そうだろ?」
凶華は私の肩にポンと手を置いた。
大きな口の中で、他の歯が米粒に見えるくらい大きな犬歯がきらりと光った。
「コボレンジャーは、戦隊の絆で結ばれてるんじゃないのか?」
「たしかに、そうだね」
でも私は楓の父を殺した。それも、苦しめて苦しめて苦しめて虐殺した。人間らしさは微塵も無い怪物の死に方をさせた。
そう思うと再び視界が潤み、私は縋るように、凶華に抱き着いた。
「うああ……!!」
「ナナ?」
凶華は私を抱き返し、私の匂いをクンクン嗅いだ。
「……何だか不穏な匂いがするぞ」
「何してんねん!!!」
あ、この関西弁は。
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