Yahoo!ショッピング

スレ一覧
380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗402

402 :げらっち
2024/08/08(木) 12:21:19

 楓は割れた皿の片付けをしながら言った。
「あー、カーペットにカレーの染みが……これはかえなきゃダメかもね」

 私は壊れたレコードのように、ごめん、ごめん、と贖罪ばかり口にする。

「……なんか変だよ七海ちゃん。親友であるあたしの目は誤魔化せないよ。正直に喋ってよ」

「別に変じゃないよ」
 私は首を素早く横に振った。
「何も無い。ただ戦隊証を没収されて、落ち込んでるだけ」

 この秘密は、私が大人になるまで。いや、墓場まで持って行くんだ。

 私は楓の目を、真っ直ぐに見つめた。
 嘘を吐いた時、男は目を逸らし、女は見つめてくるというが、どうだろう。

 楓とピッタリ目が合って、数秒経過。
 結露した窓から水滴が垂れるように、私の目から水が落ちた。
 声も出せず、目と目を合わせたまま、私は顔をひきつらせた。

「……やっぱり変だよ。あたしたち親友じゃん。何かあったなら、言って」
 楓は心配そうに私を見てくる。目線同士がセメダインでぴったりくっ付いてしまって、目を逸らすことができない。
 よして。あなたに見つめられると、私は余計に泣いてしまう。
「言えない」
 言えるわけがない。


 私があなたのお父さんを殺しましたなんて。


「誓ったよね? お互い嘘は吐かないし、隠し事は何もしないって」

「私、隠し事はしていない」

 そんな嘘が通じるはずは無かった。
「嘘だよね」
 楓は眉をひそめ、険悪な顔になった。

「約束したじゃん! 嘘は吐かない、隠し事はしないって誓ったじゃん!! 今の七海ちゃんは、嫌いだよ!! ずっと隠し事するなら、親友辞めて、絶交だよ!!」

 昂って、彼女の頭の傷から、ポタポタと血が飛んだ。


「う!!?」
 胃袋に針を刺されるような鋭い痛み。私はお腹を押さえ、しゃがみこんだ。
「……七海ちゃん?」
「ううう!!!」
 私の中で、何かが暴れている。やだ。折角出会えた友達と、親友と、別れたくない。でも本当のことは言えない。嘘を吐いた天罰だ。私の中に何か居る。針で覆われた、天罰を与える魔物。ハリセンボンが暴れてる!!
「ぎゃあ! 痛い!! 痛い!!」
 私はつんのめってカーペットを握り締めてもんどりうって叫んだ。途方も無い痛み。私は嘘を吐いたから、神に針千本を飲まされたのだ! 針まみれの魚が食道を通って上がってくる。胸が張り裂けそうに痛い!!
「七海ちゃんしっかりして!!」
 私は顔中の穴という穴から液体を垂れ流して、ひたすら祈った。氷魔法、氷魔法、氷魔法――! やがて、針千本は凍て付き、胃酸でも溶けないような氷の塊になった。胃袋に石がゴトンと落ちるような、鈍い重み。とりあえず死は免れた。
「ふー、ふー……」
 私は荒く息をしていた。

「七海ちゃん、おさまってきたみたいだね、よかった……」

 私は顔を上げて、楓を見た。
 友は立ったまま、両手に顔をうずめて、泣いていた。

「……七海ちゃんの馬鹿。嘘吐いたんだ。親友だと思ってたのに」

「ごめん……でも、言えないんだ。本当にごめん……絶交でいいよ」

 私はなおも痛みの余韻に震える胸をさすりながら、立ち上がった。

「あなたと友達になれて良かった」

 楓は顔をうずめたままだった。
 私は駆け足で部屋を出た。

「さよなら」


 私の、はじめての、友達。

[返信][編集]



[管理事務所]
WHOCARES.JP