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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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406 :げらっち
2024/08/08(木) 12:23:01
朝食のお茶漬けは、ぬるかった。
「あーんしてよ」
私の突然の要求に、公一は「は?」と言った。
私は茶ぶ台を叩いた。
「あーんしてよ!!」
「ひー、何でそんなに不機嫌なんや! 精神薬ちゃんと飲んどんのか」
と言いつつ公一はお茶漬けをスプーンですくい、私の口に運んでくれた。私はムッとしながらもそれを食べた。
「昨夜私の告白を楓に流していたんでしょ」
「なんのことやねん」
彼はスプーンをぺろぺろ舐めていた。直接キスする度胸が無いからって、間接キスにそんなに必死にならなくても……
まあ内通は批判すべき事では無い。むしろお礼を言うべきなんだ。
公一は、私が謝りやすいよう土台づくりをしてくれていたんだ……
ごちそうさまをした後、もひとつ頼みごとをする。
「お願い、一緒に来て」
「何でやねん!! 1人で行けや! 子供か!」
「16歳はコドモだよ。カレシなら一緒に来てよ」
「かかカレシ!?」
私は赤面した公一を引っ張って行く。
1人で楓に謝りに行く勇気など、無い……
それに、女である私が男子寮に居るのを誰かに見られるとアウトだ。
「寮から出るまでだけでもエスコートしてよ。忍者なら私を上手く隠して」
「世話の焼けるカノジョやな!!」
部屋を出て廊下へ。その途端目の前を男子が駆け抜けて行った。
見られた。アウト。
ではなかった。何人もの男子が、我先にと廊下を駆けて、エレベーターに殺到している。私のことなど眼中に無いようだ。只事では無い。
「外で何かあるんかな。おい!」
公一は通りすがった男子を呼び止め、状況について尋ねた。
「な、なんかやばい物が浮いてるらしいぴよ! この世の終わりぴよ!!」
男子はろくに立ち止まりもせず、逃げるように走り去って行った。
女である私が居るのを見ても驚かないとは、余程の緊急事態と見える。
私と公一は、特に同意を取り合うこともせずに、人の流れる方向に走った。
階段を下り寮の外へ。
多くの生徒が屋外に出ていた。まだ朝なので、パジャマにつっかけの生徒も居る。
彼らは一様に、空を見上げていた。
ついつられてしまうのは日本人のサガだろうか。私も公一も、顎を上げ、天を仰いだ。
「何、あれ」
空のようだった。
空ではない、空。
学園の領空にのさばるように、大きな大きな円が、静止していた。曇天のようなボディは、正に雲のように、白から鼠色へ、刻々と色を変えている。それがかろうじて天ではなく円盤だとわかるのは、チカッ、チカッと不規則に明滅しているからだ。
ゾワ、恐怖が心臓を撫ぜた。
恐怖。それは如何なる感情か。わからない。わからないから、怖いのだ。
私はいつの間にやら公一の手を握り締めていた。
彼の顔を覗き見ると、同時に彼も私を見た。目が合ったはいいものの、やり取りする感情は「恐怖」だけで、何も情報は得られない。
「……宇宙人だ!」
「世界の終わりだ!!」
「赤の巨人の次は白の円盤か! 神様は今度こそ人類を滅ぼすおつもりだ!!」
生徒たちは、ソースもわからない当てずっぽうの予測を喚き散らしていた。未知の物に自分勝手な解釈を加え、恐怖を納得させているかのようで、滑稽だ。
攻撃するでも動くでも無く、ただそこに留まっている。牽制しているようで不気味なUFO。
「嫌な予感がする!!」
私は猛ダッシュした。女子寮に向けて。
「待て七海!!」
待てない。
楓に、二度とごめんなさいと言えない、そんな予感が、したからだ。
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