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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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84 :げらっち
2024/05/10(金) 10:52:25
時計は11時を指していた。
午前だろうか、午後だろうか。外がうすら明るいので午前だろう。
私はまだベッドに居た。しばらくは安静にしていなさい、との事だった。水銀の体温計で熱を測ったり、バイタルを取られた。
「最後に発作があったのは何年前?」とヤブイ。
「だいぶ前です。小6とか。薬を飲み始めてから発作は無かったのに……」
私がそう言うと、ヤブイは「外してくれる?」と言って楓たちをパーテーションの外に追い出した。
目の下に染みのあるヤブイは、真剣な目を向けてきた。
「よく聞いて。あなたの飲んでいた薬を調べさせてもらったわ」
ヤブイは5月分の薬の袋を取り出した。寮に置いてあった物だが、勝手に取ってきたのだろうか。
「この薬はただのビタミン剤だった。メディスンジャーに問い合わせたけど、彼らはちゃんとした薬を調合したと言っていたわ。彼らは信用に置ける存在だし、そんなことをしても得をしないから白と見ていい。とすると配達戦隊ユウビンジャーという、学園内で届け物を専門に行う職業戦隊が怪しいわ」
話が呑み込めない。
ヤブイは声のボリュームを落とした。
「いい? これは本当にここだけの話ですよ。ユウビンジャーはただの雇われ戦隊だから上の力には弱いわ。問い詰めても白を切るだろうけど、そういう可能性は濃いわ。小豆沢さんを退学にさせようとしている人に心当たりは無い?」
ビリッ、心臓に電流が走り高速で拍動を始めた。
心当たりがあり過ぎる。私は真っ白いシーツを強く握り締める。
天堂茂!!
許せない許せない許せない。いくら私が嫌いでもフェアじゃ無さ過ぎる。
テストで私が倒れれば、0点扱いになり、退学になるという筋書きか。
薬という物を発作という物を持病という物を何だと思ってやがるんだ。私は死ぬ可能性だって十分あった。二度と目覚めない可能性だって十分あったんだ。そうしたら楓や公一や佐奈や豚と二度と会えなかったんだ!!
「……私が伝えられるのはこれだけです。声を上げれば消されるから、気の毒だけど泣き寝入りするしか無いわね。ちゃんとした薬は私が責任を持って届けておくから」
ヤブイは去って行った。
私は唇を噛み締めた。目から涙が滲み出た。
悔しい。
するとパーテーションの向こうから楓たちが入ってきた。
「どったの~?」
「あれ? お目目がちょっと赤いですね」
「まさかあのヤブイに変なことされたんじゃ!?」
「何やて許せへんあのババア!!」
私はYシャツの袖で涙を拭いた。
コボレの4人はずっと保健室に居てくれている。友達とは有難いものだ。
「ねえ、私、退学になるのかな」
「え? なんて?」
楓が聞き返した。
「私、テスト中に倒れたんでしょ? それじゃあ0点扱いだ」
天堂茂はかつて、「最初のテストで赤点を取ればすぐにでも退学だ」と私を脅した。
気にしないようにしていたが、私はその台詞を、今の今まで覚えていた。そして精神の弱ったこの瞬間に、記憶の前面に浮かび上がった。
「そもそも、私みたいな障害持ちは戦隊になれないって言われるかもしれない」
弱音ばかりを吐いている。失いたくないから。
「みんなとお別れしたくないよ」
楓たちは必死に言う。
「何言ってんの七海ちゃん! 病気で倒れたんだからノーカンだよ!」
「せやで。もしそんな理不尽な理由で退学にすんなら俺が抗議の意を込めて切腹したる」
「本当ブヒか?」
「御免流石に嘘です」
「てかあたしもあのテスト全然できなかった! もし退学になるならその時は一緒だよ!!」
「俺も!」
「僕もブヒ!」
「うちは退学したくない」
「佐奈!!!!」
くだらないやり取りに、私はくすっと笑った。
すると。
白いパーテーションの向こうから、見覚えのあるキラキラが近付いてくるのがわかった。
「あ、いつみ先生」
「え?」
楓たちは振り返った。
「あたり♪ 相変わらず良い目をしているね」
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