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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗90

90 :げらっち
2024/05/10(金) 11:12:56

第9話 白球勝負!


「なーんてな」

 天堂茂は、相手を蔑むいつものいやらしい表情に戻り、土足で畳に上がり込んだ。
「僕の演技は主演男優賞物だったか?」
「ゴールデンラズベリー賞が相場ね」
 ゴールデンラズベリー賞は最低な映画を表彰する賞だ。今はそんなの無いけど。
「靴くらい脱いでよ」

「靴くらい脱いでよ、だと? 一体誰がこの部屋の使用を許可したんだ?」

 天堂茂は畳に黒い足跡を残し、ずかずか侵入すると、ゴミでも見るような目で鍋を見た。
「不味そうだな」
 天堂茂は土鍋を蹴飛ばした。
「ああっ!!」
 半分も食べていない御馳走は無残にもひっくり返った。具材が散乱し、畳に汁が広がっていく。
「ブヒ~! 僕が心を込めて作ったちゃんこが!!」
 豚は屈み込んで鍋を拾い上げ、布巾で汁を吸い取る。
「何すんの!?」
 私は衝動的に天堂茂の胸ぐらを掴んだ。

「おっと、すぐに手の出る悪い癖が治ってないようだな、躾のなっていない白豚。暴力はやめた方がいい。退学になりたくないならな」

 前にも私は奴の挑発に乗って、先に手を出してしまったことがある。悪いのは私の方だとまた新聞に書き立てられてしまう。
 私は自分に言い聞かせる。冷静になれ、暴力では解決しない……

 私は何とか自制を効かせ、奴の胸ぐらから手を離した。

「お利口だな」
 天堂茂は、私に触れられた箇所が汚らわしいとでも言うように、パッパッと払い除けた。

「退学退学って、脅し文句が一辺倒だよ。お生憎様、あなたの目論見は外れて私はまだ退学してないのだけど」
 私の薬をすり替え、私を退学させようという奴の魂胆は、校長先生の懐の広さにより失策に終わった。
「茶ぶ台返しに来たのはどういう用件?」

「挨拶に来てやったのさ。クズのお前がクズを寄せ集めて戦隊を組んだと聞いたのでな」

「!!」
 私は再び衝動的な暴力に訴えそうになったが、何とか抑え、両手で髪を掻き上げる。

「私はクズでいい、みんなのことを悪く言うな!!」

 天堂茂は私の反応を楽しんでいるかのようだ。

「おい!!」
 ドスの効いた声。私はちょっとびっくりした。
「七海になんてこと言うねん! 半殺しにしたろか? 退学にしたいならしてみいや」

 公一が、私と天堂茂の間に割って入った。この男は頼もしく思える瞬間がある。
 天堂茂は小首を傾げ、公一を眺め回した。2人の背は同じくらいで、男子としてはあまり高くない。
「お前は江原公一だな? お前の父は有名だったようだがこんな奴らと付き合うとは地に落ちたものだな。僕の父上をご存じか? 天堂任三郎、ニッポンジャーの隊長だぞ。日本を統治する戦隊連合の議長だぞ」
「てめぇ、なめんなよ。父親の名前出さな喧嘩できひんのかてめぇ。しばいたろか」

 私は公一の骨ばった腕にしがみ付いた。ひょろひょろだが彼が頼れる男に思えたからだ。
 天堂茂は暫く公一を睨んでいたが、やがてニヤリと笑った。

「惚れているな?」

「な!」
 公一の耳がみるみる赤く染まった。
「低俗な者同士下品に乱れ合っていればいい。おい、その女の出身を知ってるのか?」
 天堂茂は私を指さして言う。その腕には金持ちですよと誇示するような金時計。

「そいつの出身はシティ13(サーティーン)だ」

 楓も佐奈も豚も、エッと声を上げた。
「おやおや聞いてなかったのかい。まあ言えるわけもないだろうがな。お前らの戦隊のリーダーとやらは、まだまだ隠し事をしているかもしれないぞ?」

 シティ13というのは、46ある日本のシティの中で最も治安が悪いと言われるスラムだ。
 戦争で家族を失った子供たちや傷病兵、障害者などが集められ囲われている場所で、無法者たちがよく事件を起こしている。
 確かに皆に言いたくなかったのは事実だが、自発的に言わなかっただけで、訊かれれば答えるつもりではあった。それをこんな形でバラされることになろうとは。

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