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62.長文コンクール
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693 :すき焼きのタレ
2021/04/06(火) 13:07:57

「おーい?どこ見てるんだー」
「いや……楽しそうだなと思ったので」
「それは良かった。でも」
生徒はいきなり口を止めた。
「でも?」
「いや。気にしないで!そうそう俺は3年の津島 季世(つしま きせ)。どうぞよろしく」
「ああ先輩ですか……私は2年です、よろしくお願いします」
季世がふと時計を見た。
「とりあえず中入ろっか。君、大大大遅刻だから。
あと、君のクラスがある”Aクラス棟”に行くには”Tクラス棟”を通らないといけないけど……我慢してね」

*****

休み時間なのか校内”Tクラス棟”は騒がしかった。
富豪だらけの割に、警備が緩い事に疑問を感じながら校舎内を歩いていると、ハルは何故か異様な視線を感じた。微かだが、確かに笑い声が聞こえる。
「なんか見られてませんか?」
「ああ、えーと……」
季世が言葉に詰まっていると、彼の元に女子生徒が駆け寄ってきた。
「先輩?”A”の子なんかと一緒にいて、どうかなされましたか?」
女子生徒はハルの方を向き、フッと嫌らしい笑みを浮かべた。
「……転校生の案内をしてるんだよ。人助けは僕ら”T”クラスの務めじゃないか?”T3”クラスのかわい子ちゃん」
「よくご存知で……」
女子生徒は舌打ちし、早足でどこかに行ってしまった。
「あのー」
「ああ、ごめん。とりあえずここに長くいる必要はないよね。行こうか」
ハルは何かの闇を感じながら、季世について歩きだした。

*****

教室の前を過ぎるとすっかり人が居なくなった。しかし、稀にすれ違う生徒はやはり2人のことをおかしな目で見つめていった。
校内の確認もろくにできないハルは思い切って聞いてみた。
「なんか、AとかTとか言ってましたけど。あれなんですか?」
「……やっぱり今言っておいたほうがいいよね。この学校、設備とか環境はめちゃくちゃいいんだけど……一つだけある悪いところが───生徒同士の格差」
「あーこういう学校にありそうですね」
「なかなか言うなあ……でもその通りなんだよ」
季世はため息をつき苦笑いする。
「この学校のクラスはちょっと特殊なんだ。クラス分けは年一回、こういうのは普通だけど……クラスの分け方が”上から”順に、『T1』『T2』『T3』『A1』『A2』『A3』となってる」
「面倒ですね」
「格差といっても、クラスによって環境などの違いが出てくるわけではないんだけど。制服の青色か紺色の違いくらいかな……でもこの”T”と”A”の意味が、なかなか悪意のあるものなんだ。何か分かる?」
「TARGET(標的)と、ASSASSIN(暗殺者)」
即答。
しかしハルは答えた瞬間、”T”と”A”が自分にとって身近すぎる言葉だということに気づいてしまった。
「ハハハ!面白いな!」
笑っているはずなのに、季世の目は笑っていなかった。
「でも、もっと単純だ。あからさますぎて、先生から断言はされないけどね。それは」

───”天才”と、”アホ”。

チャイムが鳴り、校内が静けさに包まれる。
「ここは親も金も何も関係ない。個人の素質と実力で、学校生活……いや、”人生”の全てが決まる」
季世は悠々と去って行った。

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