日記一覧
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191.いろはに金平糖
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43 :
へ/し/切/長/谷/部
08/16(水) 10:46
❅* 嘔吐中枢花被性疾患
(※創作審神者/創作病/閲覧御注意)
──朱、白、橙。其の色が此の瞳に映る様に成ったのは、何時からの事だったか。もう数える事も止めた。
主に其の色は朱と白ばかりで、時折紅色に染まる事も屡々。然し其れに気付かぬ振りをして、こうなる迄飲み込んで居たのは俺の過失で有り、決して主の所為では無い。…無い、と言い募った所で弱々しく為す術が見付からぬと頭を下げる主に、俺は其れ以上の言葉を紡ぐ事が出来なかった。
事の発端は、喉の違和感。…今思えば、燭/台/切と身体を重ね始めたのも其の頃で。
抑え込み飲み込めば無くなる違和感は日々を重ねる毎に大きく成り、軈て飲み込む事が難しく成った其れを人目の無い場所で吐く事が日常茶飯事と成った。
時には自室で、内番で、鍛錬場で。酷い時には演練場や戦場でも吐気を催したの数回では無く、其の情け無さと歯痒さに刀解を幾度も考え、然し或る一定の状況下に置いて吐気が引く事を知り、更に悪循環を生んだ。
…燭/台/切/光/忠。奴に触れている時だけは、喉奥を詰まらせる花も、嘘の様に消えて逝く事に気付いたのは、偶然に過ぎなかったのやもしれない。
けほ、と咳き込めば掌に落ちる花弁。時には其の花丸々口の中から零れ落ちて逝く事も有る。
薄く色付いた其の花は、"雛芥子"と云うらしい。俺には全く馴染みのない愛らしい花は、吐く度に体力を消耗させ、睡魔を誘う。
俺の異変に気付いたのは運悪く、燭/台/切唯ひとり。…其れも其の筈、彼奴以外俺を気に掛ける者等誰も居らず、彼奴とは時折夜を共にする仲であったからで。
何も特別は事は、無かった。
…無かった、んだ。其れが欠陥では無く病で有り、治す術を持つのは彼奴だけが持ち得ると云う事実を知る迄は。
"嘔吐中枢花被性疾患"。花を吐き続け特効薬等は無く、唯体力を消耗し続ける病。
原因は不明。他本丸での事例は数件、然し何れも気付かぬ間に治って居たり、中には俺の様に刀解を望み鋼に戻った者も居るらしい。
政府からの解答は、早急に対応する事は不可。不具合では無く個体差に依る物の一つであろう、と聞かされた。──詰まる所、面倒事は其々で対処しろと云う事だろう。
或る日の事。万屋での任務を燭/台/切と共に無事に終え、奴が万屋で他本丸の者と話して居る間に離れ街をひとり歩いて居た最中に噎せ込み、物陰で身を屈めて居た所を彼奴に見付かってしまった。
其の侭直ぐ様帰還を、と何事かを奴が喚く間もぼろりと落ちる小さな花は、言葉を紡がせる気は無いらしい。燭/台/切が腕を取り、肩を支えられてするりと消えた吐気は、本丸に戻り主へと謁見した途端に戻り情けない事に其の場で嘔吐きながらも刀解を、と震える聲で願いを乞うた。
乞うも、其の願いはあっさりと打ち砕かれ、使えぬなまくら刀として、母屋から離れた離れにひとり隔離される事が決まった。
感染する可能性が零では無く、主とは其れきり顔を合わせる事も無い侭に月日だけが流れて逝く。其の間も俺は報告書や書類作成の任務しか与えられず、空いた時間が唯々苦痛でしかない。
第一発見者の燭/台/切は俺に触れても感染しなかった、と云う理由で俺の面倒を甲斐甲斐しく見に来るが、…気付く事に時間は要さなかった。彼奴が来る間だけ、触れられる間の其の決まった時間は花を吐かずに済むと云う事に。
押花にでも出来たなら良いのにね、と今日も屑篭に溜まった唾液塗れの花屑を指先で愛でながら微笑う彼奴は、──何も知らない。
色濃く成る花の理由も、胸も痛みも、何もかも。
恋だ愛だと紡ぐ其の唇は、塞いでしまえば良い。
此の想いは、此の花は。…お前の様に愛らしく、温かく、優しいものでは無いのだから。
此の唇から吐き出されるものが雛芥子では無く、別の物で在ったなら如何程良かった事か。否、…もっと他の花で在ったなら。
真白な花弁が血に塗れる様も、朱色が紅を引く様も、見たくは無かった。
其れは紛れも無く俺が彼奴へと重ねる、人間に成れぬ人間の形を模した紛い物の鋼の恋慕の他、…何も無い。
嗚呼、一刻も早く鋼に戻ってしまえたなら。お前への想いを抱いた侭、お前の糧に成る事も出来るのだろうか。
下らぬ想いを馳せて生まれる雛芥子は、…今宵も涙を零す。勿忘草に成る日は、そう遠くは無い、と。
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