日記一覧
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206.二人静の断片
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235 :
燭/台/切/光/忠
03/22(水) 05:48
独白
結局…寝そびれてしまった。
でもこうして、眠れない夜に日記を開くのは随分と久しぶりに感じる。以前はよく、こうしていたっけ。彼が眠った後にゆっくりと彼のことを考えるんだ。良い時間だよ。
口から出た言葉には、善かれ悪しかれ力が宿る。
そこに視線や声色といった要素が足されて、相手の気持ちを汲み取る判断材料が沢山あって…。
それに比べると、書かれた言葉は、伝わる力が弱いようにも思える。真剣であればあるほど確かに文字じゃ足りないのも頷ける話。
ただ、場合によっては文字って、口から出すよりもずっと多くを込められる手段でもあるよね。書くにも読むにも思考回路を通るあいだで少しの余白が生まれるからさ。
それに、何度も読むとその度に新しい気付きが生まれたり、気分によって言葉の意趣ががらりと変わったりする。形に残ることはつまり可能性で。過去や今が分かりやすく未来になるわけだ。
彼は「形に残る手紙が心底嬉しい」と言った。
いや、口に出して言ったんじゃなく、それも僕への手紙に書かれていた言葉のひとつだ。…この短い一文をとってみても、ゆっくりと目を通して丁寧に噛み砕く度に、感想が変わっていく気がする。どんな思いでそう言ったんだろう?僕はいくらでも幅広く想像する事が許されるし、急いで一つの結論を出さなくても許される。
考えて、考えて、そうして書かれた手紙は…口から出た言葉よりも弱いって事はないように思う。
…僕は一度、彼から貰った手紙を全て失くしてしまった。手紙も何もかも。
手元に残せたのはこの日記だけだね。
そんな風に「簡単に消えてしまうもの」と考えたら、確かに手紙なんてあっけないものだ。大切にしていたつもりだったのに、…そう考えた所で、じゃあ簡単に消えないものって何だろう?
記憶以外は全て、簡単に消えてしまう。
深く記憶に残すためには?
後から一人で何度も読み返して、何度もその意味を考えて、実際に見るよりもきっと鮮明に頭の中で思い浮かべられた景色、目を逸らさず向き合ったから焼き付いたのは。…文字だ。
そういえば印象深い言葉があると、忘れたくないとか身を引き締めたいって理由で、自分の為に文字におこす時もあるよね。
直接口で言われて後々まで深く記憶に残る言葉は、確かに恐ろしく大きな力があるけど、ちょっと強すぎることが多い。
手紙は…そうだな、自分に都合良くと言えばそれまでだけど、もっと自分で次を選び取ることが出来るというか。どんな風に記憶に残すか考える時間があるし、いつの間にかすっかり覚えてしまっていたりしてね?
後から無かった事にできない怖さと安心感。
言葉は生き物だろう。
手紙、も…生きている?
ふとそんな気がした。僕の手から生まれた文字は全て僕の分身だ。彼から生まれた手紙の体温を、ちゃんと感じ取ってあげたい。
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