日記一覧
262.備忘録
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130 :歌-仙-兼-定
02/12(金) 00:36


夜の訪れる一瞬前、空が瑠璃色になる僅かな時間。
たまたま外に出て見上げた空がそんな色をしていると、何処か違う所に迷い込んだ気持ちになる。
逢魔が時、と言うには、少し遅いか。
けれどあの時間こそ、異なる場所と繋がるような、そんな気がするんだ。

自分の居場所は何処に有るのだろうと、たまに考える事が有る。
勿論僕は主の刀だ。主の元に有るのが正しい。
では、主とは誰だろう。
僕を此処に呼んでくれた彼は、確かに僕達の主だ。だけれど、僕本来の身は、別の所に在る。
僕はあの家によって守られ、ある時など大金を払って呼び戻して貰った身でさえあるのだ。
あの家が無くては僕はない。僕がなくては、僕の主は僕を呼べなかった。

「二君に仕えちゃならないのは、人間の話だろ? 俺らにそれは無理だって」

それが出来れば理想かもしんないけどな、と。
後-藤は困ったように笑う。
そも人でさえ二君に仕えない者の方が少ないのではなかろうか、とも思う。
考えてみればこんな言葉は、今はとうに無くなってしまっているのかも知れない。

「でもさ。俺達にはただ一つ、絶対変わんねーってモンが有るだろ」
――変わらないもの?
「矜持、って奴」

とん、と胸を叩いて、彼は笑う。いつも背丈の小ささを気にしている彼が、なんだか酷く大きく見えた。

「主が変わっても、どんな苦境に立たされても、燃えても、折れても、どんな事が有ったって。俺は俺だ。天下に名の知れた粟-田-口の刀として、そこだけは変わるつもりねーもん」

それはきっと、人でいうなら魂のようなものだと思う。
真っ直ぐに伸びた背が、一点の曇りもない両の目が、いかにも、かの吉-光の刀らしい、と思った。
自分の在る所が自分の居場所、という訳だ。それは、弱くては決して出来ない考え方だ。

――雅だなあ。

呟いた言葉は、おやつがチョコレートだと知って上がった彼の歓声に掻き消された。
誰ぞが週末に向けて練習しているらしいそれは、恐ろしく甘くて、ほんの少しだけ苦かった。


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