日記一覧
262.備忘録
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137 :燭-台-切-光-忠
03/07(月) 02:00


僕は”イイ趣味”をしているので、恋人との日記を残しておく事にしている。
僕が何もしなければ、彼等は存外、燃やしたり捨てたりせずに眠らせておいてくれるんだ。
思い出の品、というような扱いなのかな。何かを惜しんでくれているんだろうね。
そして僕はとても”趣味のイイ”事に、その日記のページをふと捲ってみたりする。
そうすると、たまに……否、結構な割合で、白紙のページが減っている事がある。

別れて後、新たに記される事、と言えば、様々だ。
未練がましい言葉を書き置いたりだとか、元の鞘に収まろうと――ああ、僕は鞘っていうか……いや、そこはどうでも良いな――健気な素振りを見せたりだとか、ただ淡々と思い出を書き残したりだとか。
そういうのを見ると、ああ、懐かしいなあなんて、ちょっと目の奧が痛んだり、当時の事を思いだしてしんみりしたり、何とも言えない気持ちになったりして。
そして、今僕が手を伸ばせば、彼はまた容易くこの腕に落ちてくるのだろうな、なんて事を考えたりする。

だけど、考えるだけだ。行動には移さない。
一度違ってしまった歯車がまた噛み合うなんて事、僕は信じていないからだ。
これはもう、自分が如何に”イイ性格”をしているかの証左みたいなものだと思っているんだけど、僕は一度壊れた仲をどうにか出来た試しがない。
恋人から友人に、なんてなった事もない。友人から恋人になって、そのまま縁が切れてしまった子は何人か居るけどね。ふふ。

先日、ふとまた幾つかの日記を捲った。
二つほど新しい言葉が記されていて、どちらも僕を愛していると宣っていた。
今、彼等に笑顔で手を差し伸べたら、きっと喜んで尻尾を振って飛びついて来るんだろうなあ、と思うと、暗い喜びを感じずには居られない。
思い出の中で理想化された僕の幻影は、彼等にとって酷く心地の良い物なんだろう。
何度も文字を目で追って、噛み締めて、僕は結局、連絡先をそこに挟む事なく日記を閉じる。
もしかして、彼等と再び縁を繋げば、またいつかの様に愛を紡げるのかも知れない。
だけど恐らく、彼等の記憶に有る僕は、最早僕ではないだろうと、そう思う。

だから、ね、僕と楽しく遊んだ君や君。
どうかその思い出の中で、格好良くて優しくて非の打ち所のない、君好みの、君の理想の僕と、戯れていておくれ。
そうして僕を、美しいままそこに留めていて。


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