日記一覧
262.備忘録
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138 :歌-仙-兼-定
03/20(日) 14:55


書いたはずの内容が消し飛んでいた。
おかしいな。あれは夢だったのだろうか。
思い返せばあまり愉快な話ではなかったから、決して残すなという神の思し召しかな。

昼餉を終えて外に散歩に出たら、目に瑠璃色が飛び込んで来た。
瑠璃唐草と繁縷が一面に咲き誇っていて、春だなと改めて噛み締める。
日差しは暖かいし、空気も柔らかく、吹く風は春の匂いに満ちていた。
ふと暦を確かめてみれば、なるほど、今日は春分らしい。
今と昔とでは少しずつ季節の有様がずれて来ているそうだけれど、いかにも春分らしい日だ、と思う。

中門の開く音がして、江-雪率いる部隊が遠征先から戻って来た、と思ったら、踵を返して遠征に向かった。

「回転数が全てだ。無心で回す為には、資材がいる。もっと、もっとだ」

虚ろな目をした主が譫言のように何か呟いている。
暖かな日差しに微睡む虎が、小さくくしゃみをして身を起こした。
どうやら手入れに入って居た秋-田が、戻って来たらしい。
何度も桶-狭-間に向かっては戻りを繰り返している五-虎-退の元に、虎と秋-田が掛けていく。
ああ、出陣の合図の音が、聞こえる。

「現実逃避はやめて、刀の整理に戻るよ」
――……あと何回、短刀や脇差を溶かして資材に変えれば良いんだろう。
「天-下-五-剣を迎える迄に決まっているだろう?」
――あの主の鍛刀運で? 迎えられると?
「……やらずにする後悔より、やってする後悔だよ」

蜂-須-賀に首根っこを掴まれて、作業に戻る。
ああ、まったく。この春の日に、こんな有様になるなんて。雅じゃない。

「五-虎-退や。桶-狭-間クルーズ、頑張っておいで」

三-日-月殿がそんな事を言って、大層楽しげに笑っていたが、多分クルーズの意味を間違って捉えていのだろうなあ……。

幾ら資材を溜めた所で、一度アクシデントが起きればあっという間に溶けて行く、と。
遠い目をして語っていた主の妹君の言葉が、ふと思い出される。
丁度彼岸なのだ、どうか、顕現するには良い日和と彼の刀が降りて来る事をひたに願おう。


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