日記一覧
262.備忘録
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143 :へ-し-切-長-谷-部
06/12(日) 22:29


貴方は、きっと知らない。
俺がどれだけ貴方を慕っているかを、知らない。
俺が、否、俺達が、何故命懸けの戦場に日々繰り出せるかを、知らない。
命のやりとりを直ぐ傍にして、どうして日常を保っていられるかを、知らない。
貴方は知らない。知らないままで良い。この心に溜めきれず、零してしまう前には、俺は自刃しますよ。
だから主、貴方はどうかその生暖かい安寧の中、俺達の血で蕩けた土に浸かって微睡んで、笑って居て下さいね。

>ご存知、いつもの冗談ですよ。

ロールプレイ、或いは、コスプレでも良い。
遊びの範囲で自分では無い誰かになりきる事、これは一種のストレス発散に繋がるのだと主は仰っていた。
自分と自分を切り離し、自分と異なる存在になる事で、色々と開放的になるのだそうだ。
俺がこういう冗談を言うのは正にそう言った理由の為で、疲労が溜まるとヤンデレとやらの真似事をする。
誰かに心酔している振りをする。誰かに心奪われ恨んでいる真似事をする。
そうすると不思議な事に、段々と本当にそんな気持ちを抱いて居るような錯覚を起こしてくる。
だがそれは、俺が本来持つ姿ではない。
当然だ。俺は主の配下だが、主が過てば諫める程度の意思は持っている。愚臣になる積もりなども毛頭ない。色恋に現を抜かして任務を疎かにする事など論外だ。
そういう有り得ない自分になって、その皮を脱ぎ捨てる時、俺の心身は不思議と軽くなる。
理由は知らないが、ひょっとすると、脱ぎ捨てた皮に無意識下の願望でも塗りたくって居るのかも知れないな。

だが、こうして何かの真似事をしている時。
皮を脱ぐのが少しでも遅れると、後戻りできなくなるのだそうだ。
有名な心理実験が示す様に、人の心身は哀しく脆弱で、被った皮に侵食されて狂わされてしまう。
ヤンデレの真似事なども、繰り返す内に、俺は本当に心の底から主に盲従してしまう事になるのかも知れない。
加減ばかりは、決して間違いたくないものだ。

そういえば、話はまるで変わるが。
毒の容れ物を見に行くと、俺が減らしてしまった分が、何者かによって注ぎ足されていた。
どうもまだ、俺はこの毒の誘惑と戦わねばならぬらしい。
改めて舐ってみた。その甘さは、とうとう喉がひりつく迄になっていた。
あれは、一体何で出来ているのだろう。


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