日記一覧
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262.備忘録
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145 :
歌-仙-兼-定
09/05(月) 00:00
長月。
……長月!?
瞬く間に夏が枯れてしまった。時の流れの速さには驚かされるばかりだ。
ここ最近で何か有ったかと言えば、特に何も無い。
ああ、強いていうならば、珍しく主が激昂した事があったくらいかな。
主は基本的に温厚だ。怒るのが面倒臭い、とも言っていた。
そんな主が、先日珍しく声を荒げ怒りを露わにした。
「俺の刀達を、よくも」
新たな戦場から帰還した彼が吐き捨てた言葉を聞いて、迎え入れた誰もが驚きに目を瞠った。
重傷者を手入れ部屋に運び入れるのを見守りながら、彼は唇を噛み締め、拳を震わせていた。
よくも、よくもと、彼は一人呟いていた。目に灯るあれは、憎しみだ。
主は、僕達を信頼している。僕達とであれば、ありとあらゆる局面に立ち向かえると確信している。
だから彼の怒りは、本来で有れば僕達に向くべきだ。彼の信頼に応え損ねた、力無き僕達に。
聞けば、どうやら彼は戦場でも珍しく暴言を吐いたらしい。
「何処を狙ってる。遊んでいるのか?」
ご尤も、だ。
けれど、戦事は分からないから、僕達の方が詳しいから、と日頃全てを預けてくれている彼にしては、随分と珍しい言いようだった。
燭-台-切もその様子には随分と驚いたらしい。
「彼がああも怒るの、いつぶりだっけ?」
――あの霧の……否、あの時もここまでではなかったな。
「随分と腹に据えかねたらしいね……。まあ、実は僕も同感なんだけど」
――と、いうと?
「ここまでコケにされて、黙っていられる訳がないだろう? 彼が怒ってくれたのは、実の所、嬉しかったりもしたんだ」
――共感、という奴だね。
「ああ、そうだね。共感されるとこの体は喜ぶ。彼があれ程怒ったのは、僕達の怒りがそれほどまでだったからかも知れないな」
なるほど。怒るにも種類が有るらしい。
我等が主のお怒りは、どうも優しさに分類される物なのかも知れなかった。
連日、かの戦場への出陣は繰り返されている。
悔しい顔をして帰って来る事も、ざまあみろと笑顔で戻って来る事も有る。
ただ、一つだけ確かなのは、彼は確かに僕達を労り、今も変わらず信頼してくれている、という事だ。
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